原発の保守点検などを担う敦賀市の会社が、全くの異業種である農業分野に参入し、新規事業として取り組んでいます。農産物の販売から加工品の企画開発、農作業の受託など幅広く事業を展開。メンテナンス会社がなぜ農業に参入したのか、その狙いを取材しました。


若狭町にある「道の駅 三方五湖」。旬の野菜がずらりと並ぶ棚で、ひときわ立派なネギや新鮮なキュウリが目に付きます。枝豆には「訳あり」のシールが付いていて、通常のものより割安となっています。販売元の表記にはいずれも「FTEC」の文字が。
 
実は、これらの野菜を扱っているのは、敦賀市木崎に本社を構えるプラントメンテナンス会社のFTECです。
  
1990年(平成2年)に高速増殖原型炉もんじゅの運営支援を目的に設立され、以来、保守点検業務などを担ってきました。現在の従業員数は約250人。その会社がなぜ、野菜を手掛けるようになったのでしょうか。

8代目社長の奥出利行さん(63)は「(もんじゅは)廃炉ということで、将来的には本業はしぼんでいく。いきなり現状の仕事だけで生き残ろうとしても難しいと思うので、その間にゼロから新しい柱を立てたいと取り組んでいる」と話します。
   
もんじゅは2016年に廃炉が決定し、2047年度に廃炉作業が完了する見込みです。
  
こうした中、FTECは新たな事業の模索を開始。社員から意見を募ったところ、農業分野における人手不足や高齢化、耕作放棄地といった地域の課題に目を向けた意見が多く挙がってきたと言います。
  
「社員からは地域の課題が挙がってきた。それならその課題解決にも貢献できないかと考えた」と奥出社長は話します。

そこで、北陸新幹線が県内で開業する前の2022年に「福井から全国の食卓へ」をスローガンとして農業事業「LUFT」を立ち上げました。
 
農業事業は現在5人体制で、リーダーの竹森秀洸さんは、以前の職業で営農指導の経験があります。 
 
LUFTの主力は農産物の販売です。県内を中心とした40軒以上の提携農家から野菜などを買い取り、県内外の取引先へ販売しています。

その買取方法には、ある特徴が。基本的に、規格外品も含めた「全量買い取り」制を採用していることです。通常では廃棄されるような形やサイズのものも全て引き取り、農家の収益向上につなげています。
 
提携農家は「規格外も買い取ってもらえるので助かる。安くても買い取ってもらえれば少しでもプラスになるので」と話します。

竹森リーダーはその理由をこう説明します。「農家さんあっての事業なので、お互いウィン・ウィンの関係。農家も所得上がるし、うちも少し儲けながら、いろんな美味しいものを全国に届けていきたい」
 
規格外品として集荷したものは、さらに選別を加え、お買い得商品として店頭で販売したり、加工品として活用したりして、他社との差別化を図っています。

また、加工品の新商品開発にも余念がありません。社内で商品のアイデアを出し合い、製造は県外の業者に委託。これまでに開発した商品数は21アイテムにのぼり、イモのお菓子や焼酎、ピクルスなどラインナップは多岐に渡ります。
 
道の駅での販売のほか、6月にはECサイトも立ち上げました。
 
LUFTでは、提携農家に対して収益性の高い作物の提案や、収穫などの作業の受託、肥料の販売なども行い、独自の戦略で農業支援を展開しています。
      
売上は順調に推移し、2024年度は4000万円を超え、2年後の2027年度には約1億5000万円の売上を目標にしています。

FTECの奥出社長は今後について「農業がどれだけ事業の柱になるか分からないが、目指すのは農業の総合商社。福井の農産物を日本全国に広めて、知ってもらいたい」と話します。
 
ゆくゆくは耕作放棄地などを買い取って自社で作物を育てることや、将来的には農業事業を独立させて別会社を作ることも考えているということです。
 
原発メンテナンス会社がゼロから参入した新事業。地域課題の解決を目指すと同時に、会社の新たな柱になるのか。これからの動きに注目です。

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