7月23日、米国側が要求していた25%から10%低い、15%で決着をした日米の関税交渉。
石破茂首相:
相互関税について25%まで引き上げるとされていた日本の関税率を、15%にとどめることができました。これは対米貿易黒字を抱える国の中で、これまでで最も低い数字となるのであります。

突然の電撃合意となった“交渉の裏側”を、キヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏に詳しく聞きました。
交渉は成功?なぜ今、合意に至った?
まず、峯村氏が注目したのは、ホワイトハウス高官がSNSに投稿した交渉中の様子を捉えた写真。

トランプ大統領の手元をよく見ると、日本の米国への投資の額が、4000億ドルから、5000億ドルに、手書きで書き換えられているのが分かります。

峯村健司氏:
これは元々400(billion)という数字を日本側から出して、その中で、それでは少ないと、車の関税を1%下げてほしいならこれを出せと。なら500とたまたまそこにあったペンで書き直したと。元々不動産の方なので、家の値切りと一緒ですよね、そこは。やり方としては。

――今回はよくやった?よくやられた?
一言で言えば、よくやったと。
もし8月1日という期限に間に合わなければ、もっととんでもない関税をかけられている可能性もあったので、そういう意味では、今回15%とはいえ、そこで収まって良かったなと。

――トランプ大統領は“TACO(Trump Always Chickens Out)”してしまったと?
今回はTACOというより、タフな交渉をしたというのも見せたくて、このような投稿をしたのだと思います。ペンで修正するのも闘っている感があるじゃないですか。

――なぜこのタイミング?
これは日本側の事情が大きいと思います。今回は「コメ」なんです。
自動車関税を下げてほしいと日本は言って、トランプ氏からするとコメが不平等の象徴だったわけで、コメを下げろと。ところが、参議院選挙があって、自民党からすると農家の方の票が取れないということがあったので、ちょっと待ってくれと。で、今回選挙が終わったので、コメというカードを切れたと、だから自動車も下がったと。

第一次安倍政権のときの交渉では、とにかくコメが入らなかったわけです。それをトランプ氏はかなり根に持っていて、「だからこそコメだ」と。「コメが不平等の象徴だ」と、トランプ氏は思い込んでいたんです。
米国の記者にトランプ氏は「日本はコメが足りていないのになぜ買わないのだ」と。これは変な障壁があるからだと言ったんです。コメというのが、日本の非関税障壁の象徴と思われていたというところがあります。

――日米が合意に至ったことで他の国々の交渉は?
峯村健司氏:
EUや韓国、私のところにも政府関係者が「どうなった?」と聞いてきましたが、めちゃくちゃ焦っています。車を売っている韓国やEUから見ると、日本がますます有利になってしまう。そういう意味でも15%に下がったのは大きいです。
しかも、元々でいうと、円安が続いていたので日本車はすごく安く売れていたんです。ですから、正直言うと、15%に上がっても吸収できてしまうので、そういう意味でもEUや韓国というのは、厳しくなると思います。
カギは“80兆円の投資”「9割持っていくという意味ではない」
これまで8回行われた日米の交渉。その中で、峯村氏は「3回目」がポイントになったといいます。

峯村健司氏:
3回目の交渉の時に、グリア通商代表と交渉して、このときはかなり険悪になったんです。グリア氏は一番「コメを買え」という方だったんですが、その交渉の場に農水省の担当者がいないと。「コメの話しているのに、なぜ農水の担当がいないんだ」と怒ったそうです。
グリア氏の側近によると、ここで交渉自体がほぼ決裂状態になっていたと。同時にこの日、石破氏とトランプ氏が45分の電話会談をしますが、これもすごく険悪な状況で、トランプ氏が2回くらい怒ったそうです。石破氏は基本話が長くて、トランプ氏は長い話が嫌いなので、さらに関税に関しても石破氏は折れず、トランプ氏にしてみれば関税政策が一番自分のいい政策な訳ですから、それを否定されてかなりうまくいかなかったと。

しかし、「日本が約80兆円の投資を行う」という投資パッケージで、持ち替えしたんですよ。これをラトニック商務長官に話したところ、「それはいいじゃないか」となり、交渉が進んだと。
投資も普通の投資ではなく、中国が輸出規制しているレアアース、これを日本と米国が手を取り合い、一緒に開発していきましょうということで、「じゃあ一緒にやろう」と。
あとは、細かいところはゆっくりやりましょうという話にしておけば、あまり詰めない方がいいと思います。

――80兆円の投資と、利益の9割が米国にというのは日本が提案した?
これは日本側からの提案です。トランプ政権はできたばかりじゃないですか、実際下の人がいないんです。だから「何か俺のメンツになるものをくれ」という要求だったと。頼むから自分の有権者にアピールできるものをちょうだいということで、いいものを作れたと。
「9割」というのは持って行ってしまうということではなくて、日本が投資した分の利益は日本もちゃんと回収します。これは「利益の9割」というより、例えば米国にレアアースの会社ができて、できたものの中で売上げは当然米国に還元されるという意味の9割なので、9割持っていくという意味ではないです。
日本側としても投資した分は回収できるので、そこは問題ないですが、本来、日本に作る工場などを米国に作ることで日本の産業が空洞化するというリスクはあります。
(「サン!シャイン」 2025年7月24日放送)