「みなし上下分離」が富山地方鉄道の救世主となるか。厳しい経営が続く鉄道会社の負担を軽減する新たな手法として注目されている。

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厳しい現状と600億円の壁

富山地方鉄道は長年にわたり赤字経営が続いている。富山県の試算によれば、車両更新や増便などを含む再構築には約600億円もの事業費が必要とされる。そのため、沿線自治体からの支援がなければ赤字区間からの撤退も視野に入れており、電鉄富山-宇奈月温泉間の「本線」、立山線、不二越・上滝線のそれぞれの存続策について協議が進められている。

このうち不二越・上滝線については、富山市が「みなし上下分離」という手法を提案している。藤井裕久市長は「コンパクトなまちづくりの政策の一環として、鉄道の活性化をしていけば乗客が増えることがわかっている。みなし上下分離を基軸にやっていけばいいのじゃないかと考えている」と述べている。

金沢市で始まった先行事例

「みなし上下分離」とは、鉄道会社の負担を軽減する存続形態の一つだ。今年4月から石川県の北陸鉄道がこの方式を導入している。金沢駅と内灘を結ぶ路線など約20キロの鉄道路線は20年連続で赤字を計上していた。この路線に沿線自治体と国から15年間で総額140億円を支援し、利便性向上と黒字化を目指している。

利用者からは「車がないのでこの電車がないと金沢にも出れないので、あってよかった」「沿線に小学校があり、高校生も使いますから、なくなると困る」といった声が聞かれる。

「みなし上下分離」のメリット

この手法は、車両運行(上部)と線路・駅舎などの維持管理(下部)を分けて、維持管理費用を沿線自治体が支援する仕組みだ。鉄道会社にとっては維持経費の安定確保が最大のメリットとなる。また、設備を大規模に変更する必要がなく、既存施設を活用できるため、早期に取り組めるという利点もある。

北陸鉄道の埴田孝嗣鉄道部次長は「老朽化した設備や補修が必要なところにお金をかけることができるようになる。それにあわせてグループのバス会社のバスとの接続や乗り継ぎ駅でIRいしかわ鉄道との乗り継ぎなど、今までよりも利便性を高めることを考えている」と説明する。

北陸鉄道ではクレジットカードによるタッチ決済の導入や、自転車の車内持ち込みを可能にするなど観光客向けのサービス向上も計画している。さらに、これまで高額で導入が難しかった振動の少ない新型車両の導入も進めている。

富山での今後の展開

富山地方鉄道の再構築を巡っては、本線の滑川-新魚津間の存続問題もあり、今年秋までに収支見通しなどの調査の中間報告をまとめる予定だ。不二越・上滝線では「みなし上下分離」を軸に再構築が検討されているが、立山線については立山町が「みなし上下分離」を前提とせず、幅広い手法を模索するとしている。

地域の足を守る新たな手法として、「みなし上下分離」の今後の展開が注目される。

富山テレビ
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