「真実が明らかになっていない」

2020年、宮城県立高校に勤務していた30代の女性教師が、同僚教師からのパワーハラスメントを受けた末に自ら命を絶った問題で、2025年7月16日、女性の両親が仙台市内で記者会見を開いた。県教育委員会がまとめた再調査報告書について「真実が明らかになっていない」と疑問を呈し、県に対する提訴を検討していると明らかにした。

「亡くなった後も尊厳を傷つけられた」

会見に臨んだ女性教師の父親
会見に臨んだ女性教師の父親
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女性教師は2020年10月、石巻西高校に勤務中、当時59歳の男性教師から「会議には出ないでください」「仕事は一切お願いしません」といった内容のメモを机に置かれるなどのパワハラを受け、自ら命を絶った。

会見で父親は「事件から4年8カ月が経ってようやく再調査報告書が届けられた」と語り、初めに県から提示された報告書については「娘の尊厳を引き裂く内容だった。娘は亡くなってからもパワハラを受けたように感じた。遺族として深く傷ついた」と苦悩をにじませた。

「再調査は真実の解明ではなかった」

県の再調査は、遺族の要望していた第三者委員会形式ではなく、県自らが実施したものだった。父親は「自分たちで調査して、自分たちで結論を出している。これでは真実にはたどり着けない」と批判した。

調査のあり方にも疑問を呈した。報告書には、男性教員への聞き取りに際して「目的は遺族向け報告書の作成」と事前に説明していたことが明記されている。父親は「調査の姿勢そのものに問題がある」と訴えた。

さらに、再調査でパワハラ行為として認定されたのは一部にとどまり、「2人以上の証言がなければ事実としない」という基準では、真相にはたどり着けないと強調した。

「パワハラを認めたのは基金の方だった」

事件後、公務災害補償基金が行った審査ではパワハラ行為が認定されており、父親は「基金の方が、問題に焦点を当ててきちんと調査してくれた」と指摘。報告書との認定の食い違いに不信感をあらわにした。

「学校は体制を“機能させなかった”」

宮城県庁
宮城県庁

報告書では、「被害者・加害者・管理職・教職員すべてにパワハラの認識が欠けていた」と記されている。これに対し、父親は「認識がなかったのではなく、体制を機能させなかったのだ」と語気を強めた。

「半年以上にわたって加害行為が続いたのに、なぜ誰も止められなかったのか。校長や教頭にも重大な過失があった」と、組織としての責任のあり方に疑問を投げかけた。

「娘は希望に満ちていた」

会見に臨んだ女性教師の母親
会見に臨んだ女性教師の母親

母親は、娘が日本史を学び、JICAの研修でタンザニアを訪れるなど、教育に熱意を注いでいた日々を振り返った。

「やりたいことがたくさんあって、いつも明るく話していました。娘との旅行も予定していたんです」

しかし、学校から「感情の起伏が激しい」「精神疾患ではないか」と伝えられた際は、「学校で泣くなんて信じられず、何が起きているのか分からなかった」と戸惑いを語った。

事件直前には、特に異変は見られず、突然の死に「何が起きたのか理解できなかった」と悔しさをにじませた。

「真実が知りたい」

会見の終盤、父は深い悲しみをこらえながら語った。

「今も、なぜこんなことになったのか、帰ってきてほしいという思いは変わりません。ずっと求めてきたのは、『何があったのか』を明らかにしてほしい、ただそれだけでした」

母は、報告書は「どうすればよかったか」という手続き論ばかりで、「なぜそうなったのか」を真剣に考えてもらえなかったと感じているという。

「死んだ者が悪いと言われているように感じることもありました。『なぜそんなことで死ななければならなかったのか』と言われたこともあった…」

精神科に通い、服薬もしていたという娘。それでも前を向こうとしながら、命を絶つ選択をした事実が残った。

「若い教員を守る仕組みを」

宮城県石巻西高等学校
宮城県石巻西高等学校

母は、亡くなった直後に、娘の机に花も手向けられなかったという話を聞き、「余計な人間だったのかと思ってしまった」と言葉を詰まらせた。

それでも、「石巻西高校の先生方が管理職に話をしてくれていた」と感謝の言葉も口にした。しかし、娘が追い込まれた現実は変わらない。

「娘は『職場をみんなで楽しいところにしたい』と話していました。亡くなった当日も若い先生方と鍋パーティーをする予定だったようです。(パワハラをした)男性教師から外部の人に連絡するな、という話もあったと聞いています。ちょっとしたことで支えがあれば、死なずに済んだのではないかと思ってしまうんです」

「経験の差があるのは当然です。でも、経験が長いからといって、一方的に『仕事は任せない』と排除するような言葉が許されるのか。若い教員を守るための心の持ち方と、制度の整備をお願いしたい」

娘の死を繰り返してほしくない、その願いを込めた切実な訴えだった。

遺族は現在、県に対する法的責任を問う提訴を検討している。

「管理職に重大な過失があると報告書にも記された。であれば、これは単なる公務災害では済まされない」と父親は語る。

一方で、報告書が公表されたことの意義については「これが再発防止につながるのであれば」と前向きに受け止め、「同じようなことが二度と起きてほしくない」と教育現場への改善を訴えた。

仙台放送

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