7月20日に投開票が迫る参院選では、食卓を直撃した「令和のコメ騒動」も大きな争点になっている。日本の農業の未来はどうなるのか。揺れる現場の声を取材した。

■目玉商品「ひとめぼれ」は3980円 店員「約2年前は特売で1500円位で…」
7月16日、名古屋市中川区のスーパー「ウシヒロ 八熊店」のコメ売り場。新潟魚沼産コシヒカリが5キロ5280円、三重県産のものが4480円と並ぶ中、女性客が手に取ったのは、この日の目玉商品、3980円の岩手県産「ひとめぼれ」だ。

ウシヒロ八熊店の大矢智之さん:
「半分位の価格、1980円だったりしていました。2年くらい前は、特売で1500円くらいで販売した覚えもあります」
政府が「古古古米」まで放出を決めた甲斐もあってか、調査では、スーパー店頭のコメ5キロの価格は7週連続で下がり、3602円になった。それでも、2024年の同じ時期の1.5倍以上の水準だ。

客ら:
「買えません。(値段を)見ながら、どこの店に行っても確認しながら」
「仕方ないかもしれないけど、主食はもうちょっと安い方がいいよね。政府がなんとか考えてもらった方がいいのかな」
「農家さんが大事ですよね。なんでも原点が大事だと思います。ただ値段だけで、安いから・高いからではなくて、原点を助けながら」

店から手頃なコメが消え、備蓄米に長い行列ができた「令和のコメ騒動」。減税や給付などの物価高対策とともに、参院選の大きな争点にも浮上したのが『農業政策』だ。
「価格はいずれ落ち着く」と言い続けた政府の打ち手の遅さとともに、今後の増産など、農政のあり方も議論の対象になっている。
■2018年に廃止したはずが…『事実上の減反政策』の現状
見渡す限り青々とした田んぼが広がっている、愛知県豊田市の本地町(ほんじちょう)。
71歳の岡部千治(おかべ・せんじ)さん。4000平米に稲が青々と育っているが、実はコメ以外をつくっている“田んぼ”もある。

岡部千治さん:
「こっちに4反、向こうに4反ある。こっちは今年作らない。作らないところは麦と大豆を作るという話で、減反政策はずっと前から行われているので、そのままやっている。われわれ農民は言われるがままに作るんですけどね」
国は2018年に、都道府県ごとにコメの生産目標量を示すのをやめ、50年近く続いた減反政策を「廃止」した。しかし、その後も需要の予測を基に「生産量の“目安”」を示し、麦や大豆に転作する農家に補助金を出していて、これが『事実上の減反政策』と呼ばれている。

岡部さん:
「米が足りない、来年から足りないって言っても、来年急に作るわけにはいかない。種を準備して『その次は作っていいですよ』って言われるのかどうかも」
コメ騒動で一転、増産の必要性が言われるようになったが…。
岡部さん:
「価格を安定させてほしい。コメを作って一生懸命やっていったときに、『最低限これだけかかりますよ』と。それをちゃんと聞いて、基準を設けてほしい」
■コメ農家と意見交換した小泉進次郎農水相
7月11日、三重県鈴鹿市のJAを視察に訪れた小泉進次郎農水相。緊急登板となった農水相就任の前から、農協改革を訴え続けている「コメ担当大臣」を前に、農家たちも少し緊張している様子だ。
小泉進次郎農水相:
「『とにかく米を下げればいいと思っているんだろう』という声もあるんですけども、全くそんなことはなく、令和7年産以降の新米の価格については、生産者の皆さまと消費者の皆さまが双方納得いく価格を目指して、取り組みを様々進めている」

JA組合員のコメ農家およそ30人と1時間、意見交換した。
コメ農家:
「聞いてみると『なるほどな』と思う部分もあって、ただ納得のいかない部分もゼロではなかったので、そこは私の意見として伝えさせてもらった」
別のコメ農家:
「生産に見合うコメの価格、適正な価格をお願いしたい」
小泉進次郎農水相:
「今日は大変赤裸々なお声をいただきました。せっかく(米価が)上がってきたのに、ここで水を差されたという思いを率直にぶつけてこられる方もいらっしゃいました」
消費者の声を背景に、改革路線に舵を切ったように見える政府・与党に、農家たちは時に戸惑いも見せていた。
愛知県岡崎市では7月8日、JA組合員らおよそ250人を集め、自民党の比例候補の演説会が開かれた。

陣営:
「この投票というのは、農業の10年後、20年後を決めるような選挙であると」
自民の伝統的な支持団体であると同時に、コメ騒動のさなか、やり玉に挙げられることも多かったJA。集会に参加した農家の中でも、JAのあり方、政治との距離については意見が割れた。
演説会に参加した農家:
「議員個人と政党は乖離しているのはあるのかなと。今まで政策をやってきた自民党というのがあるので、そこは支持する。(JAの)実態と、ネットとかで伝わっている情報は、結構乖離していると思う」
演説会に参加した別の農家:
「農協を頼りにしている人は多いし、でもちょっとかけ離れているところもあります。(JA改革に)期待もしているけれど、諦めているところもある」
■農家「期待は多いが、期待したところで…」コメの未来は
岐阜県垂井町で、米作り一筋およそ50年の高木美信(たかぎ・よしのぶ 78)さん。
高木農園の高木美信さん:
「ほとんどふるさと納税に出すから、白米にして5キロで販売しています」
高木さんは数年前から、JAを通さずコメを販売するようになった。

高木さん:
「値段が個人で売ったほうが高く売れる。温暖化になっているから(田植えの時期を)私なりにずらしてやっている。他の人は農協の(指定する)日にちでやる。私は自分でやれるから、皆さんより遅れて田植えしたり、収穫したりできる。それによってコメの質も変わってくる」
市場とより直接的に向き合うようになった高木さんだが、コメの値上がり以上に気になるのが、燃料費や電気代をはじめとする生産コストの上昇だ。

高木さん:
「消費者に対しては値下げとか一生懸命にやっているけれど、生産者に対しては何も言わへん。生産者に対しては今のところ何もメリットあらへん。どういう対応をしてくれるのか」
高木さんは、長年の経験で培った“こだわりのコメ作り”を次の世代に引き継げるよう、国の支援を求めている。
高木さん:
「生産者がいなくなる。後継者が生活できるような体制にしてもらわないと。今は生活できないからみんながやめていく。期待は多いですけど、期待したところで何ともならへんかもしれんし」
大きな曲がり角に立つ、日本の農業と政治。私達の一票は、どんな未来につながるのだろうか。
2025年7月18日放送
(東海テレビ放送)