東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えしています。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。

選挙において、SNSで拡散する「切り抜き動画」が影響力を高めている。政治家の印象的な言葉などをピックアップし、若い世代にもわかりやすく伝えることができるが、誤った情報もあふれている。「切り抜き動画」と、どう向き合えばよいのだろうか。

■SNSにあふれる『切り抜き動画』 再生回数“1000万超え”も

2025年5月、東京都杉並区の阿佐ヶ谷駅前で、登録者数およそ28万人の“政治系YouTuber”うしさんが、都議選に向けたライブ配信を行っていた。

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特に力を入れてきたのは“ショート動画”で、公式の映像などに文字スーパーや、音効も加えて再編集している。

政治系YouTuberのうしさん:
(編集は)YouTuberの方とかを参考にして、こういう(テロップの)つけ方・出し方があるっていうのは、やる前に研究しました。最初やり始めたのがショート動画なんです。若い人って多分ショート動画の方が見てくれる。

YouTubeやTiktokには、“政治系のショート動画”があふれている。

2024年11月の兵庫県知事選挙での斉藤元彦知事や、同じ11月に行われた名古屋市長選挙でも、SNSは選挙戦の原動力となった。

いま、あふれているのが、国会中継などの映像を独自で再編集した「切り抜き動画」で、政治家の発言について、印象的なシーンを切り抜き、文字などを載せて編集されている。

国民民主党の玉木雄一郎代表のように、自ら切り抜きをお願いする政治家もいて、広島県安芸高田市長時代の石丸伸二氏と、議長のやりとりを議会映像から切りぬいた動画は、2025年5月28日時点で、総再生回数が1188万回にものぼった。

この切り抜き動画は、“政治系youtuber”うしさんこと、YouTubeチャンネル「石丸伸二と日本を動かそう」を運営する30代の男性が作成した。2023年12月から、石丸氏関連の動画を配信している。

政治系YouTuberのうしさん:
すごく人に教えたいというか、いい本があったら人に紹介したくなるじゃないですか。本当にそういう感覚で、端的にもっと色々な場面を教えたいと思った。

選挙ドットコムの調査によると、2024年秋の衆院選で、投票の時に参考にしたメディアで「インターネット」と答えた人の割合は、30代以下でテレビや新聞よりも多く、20代では半数以上を占めた。

「切り抜き動画」はわかりやすく、そして短く編集されることで、時に元の動画より多く再生され、大きな影響力を持つこともある。

■過激な内容求め…誹謗中傷につながる“切り抜き”も

「切り抜き動画」は誰もが作ることができるが、情報が正しいのか、どうチェックすれば良いのかが課題となっている。

2022年に設立された非営利組織の「日本ファクトチェックセンター」の古田大輔編集長は、政治に関する切り抜き動画に、偽情報や誤情報が非常に増えているという。

日本ファクトチェックセンターの古田大輔編集長:
切り抜き動画って本当にごく一部しか抜き出せないから、元々の動画、元々の情報は間違ってなかったのに、切り抜いたことによって間違ったことになったっていうことはよくあります。

2025年4月に、X上で拡散された切り抜き動画では、自民党の佐藤正久参議院議員が、1985年の日航機墜落事故について、「自衛隊が訓練中に誤って撃墜したために起きた」と発言している。

外交防衛委員会の元の動画を見ると、佐藤参院議員は「隊員の名誉のために放置できないと思い本日とりあげています。(本の)中身はですね…」と話した後に「自衛隊の標的機がJAL123便を撃墜してしまった」と発言していた。

佐藤議員が書籍の引用として述べた内容のみを切り抜かれていて、実際には正反対の主張をしているとして、日本ファクトチェックセンターは、“誤り”と結論付けた。

この「誤った切り抜き動画」は、すでにX上で1300回以上リポストされていた。

2024年に行われた調査では、偽の情報を15個見せたあと、正しいか間違っているかを問うと51.5%が「正しい」と答えるなど、多くの人が目にした情報を信じていることがわかった。

再生回数を稼ぐために、過激な見出しや内容を追い求めた結果、誹謗中傷を伴う投稿となり、それが収益につながっているケースもある。

■YouTuber「判断するのは視聴者」…『切り取り動画』の規制求める声も

2025年3月の国会でも、村上総務相が動画制作を有償で依頼した場合、公職選挙法の買収罪にあたる可能性を指摘した。

村上誠一郎総務相:
選挙に際し、業者など有償で動画作成を依頼することについて、当該事業者に対しその対価・報酬を支給することは、公職選挙法上の買収罪に該当する恐れがあります。

政治系YouTuberのうしさんは、切り抜き動画に絶対にあってはならないのは「ウソ」だというが、選挙コンテンツの収益について、規制を含めた議論が生じていることについては異論を唱える。

政治系YouTuberのうしさん:
誰のために言っているかだと思っていて、国民のために言っていますか?誰の利益のためになっていますか?というのは問うべきだと思います。国民の人って見たいから見ているわけであって、それを見られなくしてどうするのか。判断するのは視聴者なんです、国民なんですよ、いいも悪いも。でも、何かしらイエス・ノーを示してくれたらそれでいいと思っているので。日本が皆さんの判断によって動いていけばいい、ここがその日本を動かそうって、当然、いい方向に動かしたいので。

2025年5月28日放送

(東海テレビ)

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