39年前に福井市で起きた女子中学生殺人事件で懲役7年の刑が確定し服役した前川彰司さん(60)の再審は18日、判決公判が開かれ、名古屋高裁金沢支部は検察の控訴を棄却し、一審の無罪判決を支持しました。これまでの経緯を司法担当記者が解説します。
◆一審の無罪判決を支持
<司法担当:竹内慶行記者の解説>
この事件は、1990年の一審・福井地裁で無罪となりますが、検察は控訴をしました。そして1995年の二審・名古屋高裁金沢支部で逆転の有罪判決が言い渡されました。
今回の再審は、この二審をやり直す裁判ということになります。18日に下された判決は「控訴を棄却する」。つまり一審の無罪判決を支持する事になります。よって前川さんは「無罪」ということになります。
ただ、検察は今回の判決に対し最高裁へ上告することができますが、再審公判で新たな証拠を提出していないこともあり、上告する可能性は極めて低いのではないかと思われます。
◆警察や検察が都合の悪い事実を30年、隠ぺい
今回の再審公判は、「関係者の供述の信用性」が争点となっていました。そもそもこの事件は、物的証拠も前川さんの自白もなく「血の付いた前川さんを見た」などと話す関係者の供述を中心に捜査が進められました。
事件に関わった当時の弁護士や新聞記者への取材でも、警察や検察の捜査は最初から
「ずさんで危うい点があった」という声が聞かれました。
関係者の供述には「変遷している」「互いに支え合っている」という2点に尽きます。
▼供述の問題点1
血の付いた前川を見たという元暴力団組員Aは、ある日の取り調べで「底喰川に血の付いた服を投棄した」と供述していましたが、別の日の捜査報告書には「血痕付きトレーナーは、ダンボール工場西側土手に埋めた」と違う話をしていました。
また、事件当夜に前川さんと行動を共にしていたとされるNは、取り調べ当初は事件に関与していないと話していたのですが、控訴審で「血の付いた前川さんを見た」と
話しました。
これは代表的なもので、ほかにも関係者の供述が変わっていることが確認されました。
▼供述の問題点2
これらの供述は互いに支え合うような構造となっていたため、1つが欠けると供述全体が崩れてしまいます。その一つが事件当夜に関係者らが見たとされている、当時、福井テレビで放送していた番組「夜のヒットスタジオ」。男女の歌手が体を密着させて踊る印象的なシーンを見たと話していましたが、検察が新たに開示した証拠では、放送日が違っていたことが分かりました。
一つの供述が崩れたことで、他の供述もつじつまが合わなくなり、関係者全員の話が信用できないとなったのです。
これらの事実は2024年の再審開始にあたり検察が開示した捜査報告書や供述調書など287点の新たな証拠によって明らかになったのです。警察・検察は、自分たちにとって都合の悪い事実を30年余りにわたって隠してきたのです。
こうした冤罪事件を教訓に、国では再審制度にルール化を設ける議論を始めています。証拠については、警察や検察にとって都合が悪いものでも隠すことができないよう、証拠はすべて提出することも議論されています。
◆専門家の見解
18日、名古屋高裁金沢支部は検察の控訴を棄却、すなわち前川さんを無罪としました。
この判決について、刑事訴訟法を専門とする大阪大学の水谷規男教授に話を聞きました。
大阪大学・水谷規男教授:
「一審が無罪だったのに、なぜこんなに時間がかかったのかという疑問は残るが、妥当な結論に落ち着いた。関係者の供述だけが有罪の決め手だったので、もともと無理があった。確定審の控訴審が有罪にしたこと自体が間違いであったということを、今日の判決は改めて確認したということだ」
前川さんが逮捕されて38年。やっとの思いで「無罪」を勝ち取りましたが、失われた時間は戻ってきません。冤罪事件が繰り返されないよう、対策が求められています。