政府は海外への「渡航中止勧告」を10月以降、段階的に解除する方向だ。新規感染者数が少ない国や地域から段階的に解除するという。ではいま海外に飛び立つことが出来ない留学生の現状と課題を取材した。

渡航できない日本人留学生と受け入れを緩和方向の英米

外務省では「感染症危険レベル」を4段階に分けており、レベル1は「十分注意してください」、レベル2は「不要不急の渡航は止めてください」、レベル3は「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」、レベル4は「退避してください。渡航は止めてください(退避勧告)」となっている。現在、世界各国・地域のレベルは2以上となっている。

感染症危険レベル別マップ(2020年10月1日外務省HPより)
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外務省HPより

文科省では外務省が定めるレベル2以上の国と地域への留学を推奨していない。つまり現在、海外への留学はほぼ不可能ということだ。

一方、海外では留学生の受け入れを緩和しつつある国もでてきた。文科省の「トビタテ!留学JAPAN(※以下トビタテ)」が今週、各国の大使館に調査し、日本人留学生受け入れ状況をまとめて公表した。

(※)文科省の官民協働海外留学創出プロジェクトが運営する奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」

イギリスは「受け入れ準備出来ています」キャンペーン

アメリカではトランプ政権が7月「すべての授業がオンラインの場合には、ビザを発給しない」と発表して一時混乱したが、現在は留学セミナーを行うなど積極的な広報を行っている。

イギリスは留学生向けに「ready for you(受け入れ準備は出来ています)」というキャンペーンを行い、留学生受け入れに関する政府方針や大学の様子を配信している。日本人の場合2週間隔離を必要としない大学も増えてきた。またイギリスでは9月から留学情報プラットフォームを作り、イギリス留学に関心のある海外の学生とオンラインで個別に対話もできる。

ヨーロッパの中でコロナの被害が大きかったイタリアも、留学生の受け入れに積極的だ。大学留学の手続きをオンライン化し、音楽院や美術学院もオンライン手続きを開始する予定だ。

フランスは7月からビザ申請を再開し、留学生を受け入れている。日本の学生には14日間の隔離を義務付けていない。現在大学の授業は、対面、オンライン、対面とオンラインのハイブリッドと学校ごとに対応が分かれている。

オーストラリアやカナダは依然厳しい入国制限

一方、依然として留学生に厳しい入国制限をしている国もある。

オーストラリアは国境閉鎖が続いているため、現在も留学生の渡航は認められていない。しかしロックダウンしていない州では一部大学で対面授業が開始され、オーストラリア国外の留学生はオンライン受講も可能だ。現在オーストラリアでは、少人数の留学生を段階的にオーストラリアに渡航させ、留学再開にむけた試験的な取り組みを検討している。

日本人留学生に人気の高いカナダも入国制限をしており、新規の留学生の入国が認められていない。大学はオンライン授業がメインだ。カナダでは卒業後就労ビザをもらえるが、現在は特別にカナダ国外でオンライン授業を受講している学生もOKになっている。

米大学から帰国後「オンラインは時差がきつかった」

トビタテでは、昨年度400人の留学生を海外に送り出したが、ほとんどが学期途中で日本に帰国した。また今年度留学予定だった500人以上は、日本でスタンバイ状態となっている。

宮﨑大学の今田さんは米国留学中に緊急帰国

宮﨑大学3年生の今田紫生良さんは、トビタテの留学制度を使ってアメリカ・ペンシルバニア州のインディアナ大学に留学して宇宙工学を学んでいた。

「去年の8月から現地にいました。コロナが流行し始めた当初は『アジアは大変だなあ』と思っていましたが、アメリカであっという間に感染が拡大して、授業がオンラインに切り替わり学食や寮が閉鎖されました。留学生はとにかく大変で、帰国するにも航空券の価格が跳ね上がって帰れないという話も聞きました」

今田さんは帰国後、5月まで自宅でオンライン講義を受けた。

「時差がきつかったです。オンデマンドはいいのですが、リアルタイムの講義は夜10時から朝6時までだったりします。また、現地での対面授業ではグループワークが多かったのですが、オンラインになってからは先生が一方的に講義するかんじでした」

その後「無料で質が高い」(今田さん)というMIT=マサチューセッツ工科大学のオンライン講義も受講したが、すべてオンデマンドだったので時差無くよかったという。

オンライン留学と現地留学の違いについて、今田さんはこう語る。

「知識を詰め込むための留学ならオンラインの方が魅力あるなと思います。留学は渡航費や滞在費がかかるので、授業料だけ払えば日本で講義を受けられますから。ただ、留学の醍醐味はその国に行って現地の人と触れ合うことです。帰国してオンライン講義になってからは留学している感じがしませんでしたね」

今田さん「留学の醍醐味は現地の人とのふれあい」

オンラインの共同研究「ゼロスタートは厳しい」

同じくトビタテの支援を受けて留学した横浜国立大学大学院の重政海都さん。2019年9月からドイツの国立研究所でインターンをしながら水素の研究をしていた。本来は今年8月まで滞在予定だったが、コロナの感染拡大で3月に緊急帰国した。

横浜国立大学大学院の重政さんはドイツから緊急帰国

「3月に外務省がドイツをレベル3に指定し、母校から帰国勧告を言い渡されました。ドイツ出発の日、電車の中にほとんど人が乗ってないのをみて、状況の異常さをあらためて認識しました。ですから帰国したとき、家族と無事再会できたことを素直に喜びました」

重政さんは帰国後、オンラインによる共同研究を始めた。

「意外となんとかなりますが、ゼロからのスタートでは厳しいと思います。水素の研究は実験がメインでオンラインでは出来ません。現地でしか出来ないことはこちらから指示を出して現地でやってもらったりしています。こうした融通を利かせてもらえるのは、やはり半年間現地にいて信頼関係を築いたからだと思います」

重政さんにも「オンライン留学と現地留学の違い」について聞いてみた。

「最大の違いは偶然の出会いに巡り合えないことです。本当に貴重な経験なのでそれがなくなるのは残念だなと思っています。あとオンライン留学になると、自ら考えて学びを深めたいと思う層と、周囲に流される形で大学に入学した層の差がますます広がっていくと感じました。」

重政さん「現地との信頼関係がないとオンライン共同研究は厳しい」

「志の高い学生は自ら道を切り開こうとしている」

トビタテではオンライン留学に対しても、一定の条件を満たせば、留学準備金と授業料の支給対象としている。

広報・マーケティングチームリーダーを務める西川朋子さんはこう語る。

「いま留学できない状況の中で、オンラインで留学を開始する学生が増えています。海外への渡航が再開したときにゼロスタートとならないように環境を整えているのです。志の高い学生は自ら自分の道を切り開こうとしています。自分のやりたかったことが何なのかをあらためて問い直して、いまの状況を前向きにとらえているんです」

憧れの現地留学が出来なくても嘆いている暇はない。日本にいてもオンラインで留学準備はできるのだ。ピンチをチャンスに変え、現地でロケットスタートを切れるかどうかは、1人1人の学生の志にかかっている。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】