国連の気候変動対策を話し合う「COP29」がアゼルバイジャンで開幕した。温暖化対策の遅れは深刻で、2021年、トルコの湖が干上がった影響でフラミンゴが大量に死んだ。干ばつが酷くなっているほか、違法な井戸の存在も指摘されている今、効率的な水資源の利用が求められている。

トルコ第2の湖「トゥズ湖」の水がない…塩の生産にも影響

トルコ最大都市・イスタンブールから車で6時間。

トゥズ湖を歩くフラミンゴ
トゥズ湖を歩くフラミンゴ
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国内で第2の大きさを誇る湖「トゥズ湖」は多くの塩分を含む塩湖だ。

真っ白な湖面に景色が鮮やかに映し出されることから「天空の鏡」と呼ばれ、神秘的な光景を見ようと多くの観光客が訪れる。

一面真っ白なトゥズ湖 2024年11月6日
一面真っ白なトゥズ湖 2024年11月6日

しかし、11月に湖に行ってみると、辺り一面、真っ白の雪景色のようでほとんど水がなく、塩がむき出しの状態だった。観光客は「どこもかしこも塩で不思議」「砂漠みたいで何となく怖い」などと話していた。

トゥズ湖の塩をトラックに積み込む
トゥズ湖の塩をトラックに積み込む

トゥズ湖では塩の生産も行われている。

関係者しか入ることができない湖の中心部では、地表に出てきた塩をトラックに詰め込む作業が行われていた。湖面にある塩を特別な車両で豪快にトラックの荷台に放り込む姿は圧巻だ。ここで作られた塩は、トルコで生産される塩の約6割を占め、一大産業になっている。

トゥズ湖で採れた塩
トゥズ湖で採れた塩

地球温暖化はこの塩の生産にも影響が出ている。

塩を採るためには地下にある塩が水を介して地上に上がってくる必要があるが、湖の水は25年前の1割ほどに激減した。自然に地表に上がってくる塩の量が限られているのだ。

コユンジュ塩・地質エンジニア、ドーアンさん
コユンジュ塩・地質エンジニア、ドーアンさん

トゥズ湖で塩の生産をしているコユンジュ塩・地質エンジニアのドーアンさんは、対策について「この地域は干ばつが酷く、雨量が少ない。そのため山から来る水や地下水を利用し必要に応じて放水を行っている」と話す。

湖の水が足りない場合は塩を採るため、山などからくる地下水を使い人工的に湖を作り上げているという。

“無数の違法な井戸”で湖が消滅

湖から水が消えた原因は干ばつだけではない。

地質エンジニア オズデミルさん
地質エンジニア オズデミルさん

地質エンジニアのオズデミルさんは「地球温暖化で水が不足し、農家のなかには違法に井戸を掘っている人がいる。地下水の奪い合いになっている」と説明する。

トゥズ湖があるコンヤ地方はトルコ有数の穀倉地帯で、麦やとうもろこしの生産が盛んだ。しかし、これらを育てるには大量の水が必要。

コンヤ地方の農場(2023年9月)
コンヤ地方の農場(2023年9月)

温暖化による干ばつの影響で、一部の農家は大量の水を確保するため、国に届け出ない違法な井戸を設置し、その数は1万個以上に及ぶという。

干ばつに加えて、違法な井戸から大量の地下水を汲み上げ続けた結果、トルコでは240の湖のうち約8割が消滅したという。

繁殖地であるはずのトゥズ湖でフラミンゴが大量死

トゥズ湖はフラミンゴの繁殖地としても知られる。

フラミンゴ約5000羽が餓死する事態に…(2021年7月)
フラミンゴ約5000羽が餓死する事態に…(2021年7月)

2021年、フラミンゴがトゥズ湖に飛来してきたが、温暖化の影響などで湖の水が干上がっていて、餌となる小さなエビもいなかった。

そのため生まれたばかりのヒナなど、約5000羽が餓死したのだ。

広範囲でフラミンゴの死骸が確認できる(2021年7月)
広範囲でフラミンゴの死骸が確認できる(2021年7月)

トゥズ湖に大量の死骸が広がる映像はトルコ国内外で衝撃を与えた。

フラミンゴを救うため天然ガス工場から水を引き入れる

トルコ当局はこうした事態を避けるため、天然ガスを生成する際にくみ上げた水をトゥズ湖に入れる計画をたてる。

40キロ先からトゥズ湖に水を移送
40キロ先からトゥズ湖に水を移送

40キロにも渡るパイプラインを設置し、2024年、フラミンゴの繁殖期である夏頃にトゥズ湖へ水の移送を実施。無事に4500羽のヒナが巣立つことができたという。

しかし、この計画に関しても専門家は警鐘を鳴らす。

スレイマン・デミレル大学 ケシジ教授
スレイマン・デミレル大学 ケシジ教授

スレイマン・デミレル大学のケシジ教授は「水なら何でもいいわけではない。天然湖は、数百万年もの間、生態系の中に存在し、独自のバランスと循環を保ち、生物学的多様性を形成してきた。外から水を持ち込んで、異なる細菌、異なる有機体を入れることほど危険な状況はない」と説明する。

ケシジ教授によると、水を採取している40キロ先も元々は河畔で、トゥズ湖とは自然環境が違う。

塩湖に飛来したフラミンゴ(2024年7月)
塩湖に飛来したフラミンゴ(2024年7月)

異なる細菌をトゥズ湖に入れることで、今までいた細菌が存在できなくなり、フラミンゴが食べるエビもいなくなる。

また湖の塩分濃度も変わり、鳥はもちろん人間も生活できなくなる可能性があるとしている。

水が少なくても育つ穀物を開発へ

根本的な解決策を見つけようと、セルチュク大学理学部のウイサル教授は、トゥズ湖周辺で塩分が強く、水が少ない環境でも育っている固有種に注目した。

トゥズ湖周辺で生息する固有種
トゥズ湖周辺で生息する固有種

ウイサル教授は、なぜ過酷な環境でも育つことができるのかを解明するため、固有種の遺伝子を分析。最終的には穀物の遺伝子を組み換えて、「水が少なくても育つ麦やトウモロコシ」などを新たに生み出しそうとしている。

セルチュク大学理学部 ウイサル教授
セルチュク大学理学部 ウイサル教授

ウイサル教授は「水が全くなく植物が育つのは無理だが、できるだけ水を使わない農業を発展させるべきだ」と強調する。

COP29では気候変動対策や途上国への資金支援が議論されている。

COP29(2024年11月12日)
COP29(2024年11月12日)

しかし、アメリカのトランプ次期大統領が温暖化対策に否定的な姿勢を示しているなど、前向きな方向で議論がまとまるのかは見通せない状況だ。

一方、温暖化による干ばつはすでに世界各地で起きており深刻な状況だ。限られた水資源を効率的に活用することが早急に求められている。
(イスタンブール支局 加藤崇)

加藤崇
加藤崇