内戦が続くシリアで反政府勢力が2024年12月8日、首都ダマスカスを制圧し、アサド政権が崩壊した。シリアでは複数の武装勢力が存在しているほか、イスラム教徒、キリスト教徒など様々な宗教や宗派があることから、国民全員が一致した方向に向かっていけるのか先行きは見通せていない。

トルコ・イスタンブールでインタビューに応じた「シリア国民連合」ハディ・バハラ議長(12月13日)
トルコ・イスタンブールでインタビューに応じた「シリア国民連合」ハディ・バハラ議長(12月13日)
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そうしたなか、多くの国際社会から認められている反政府勢力の政治組織「シリア国民連合」のハディ・バハラ議長が、トルコ・イスタンブールでFNNのインタビューに応じ、シリアの復興、新政権のあるべき姿などについて語った。

「アサドの人道的犯罪からの復興には20年はかかる」

反政府勢力が大規模攻勢をかけてから、わずか12日目にして親子2代で50年以上にわたった独裁は幕を閉じた。トルコなどから多くの難民が「これからは自由になる」と期待感を持ってシリアに帰還。しかし50年以上に渡り強権で支配してきた弊害、内戦の爪痕、経済危機など課題は山積している。

こうした課題について、反政府勢力の政治組織「シリア国民連合」のハディ・バハラ議長は、「回復するまで20年はかかる」と話す。

父と50年以上独裁政治を行ったバッシャール・アサド前大統領
父と50年以上独裁政治を行ったバッシャール・アサド前大統領

「アサドは5万人以上の人々を拷問で殺すという最も恐ろしい人道的犯罪をした。そしてシリアの人口の半分を強制的に家から追い出し、国内外の難民にした。人口の半分だ。彼が引き起こした損害は大きく、そこから回復するまで20年はかかるだろう。
シリア国民は銃による支配を強要するアサドという独裁政権に反旗を翻したのだから、我々は銃口で未来を管理するつもりはない。平和と対話、そして民主主義の基本的なルールに基づいて未来を築くべきなのだ」

アサド政権崩壊を喜ぶ市民
アサド政権崩壊を喜ぶ市民

「シリアの人々の願望、そして私たちが必要としていること、人道的ニーズを満たすために多くの経済援助が必要になる」

バハラ議長はシリアが民主主義国家を目指すべきとして、今後の政権樹立に向けて各組織と調整したいと話す。

宗教も宗派もない包括的な政権を樹立し、2年後には選挙を実施

新政権についてバハラ議長は、「非宗教的な基盤に基づくことが必要」だと訴える。そして、シリア国民全員が参加する自由選挙を2年後に実施することを目指すと明言した。

「シリア国民連合」ハディ・バハラ議長(12月13日)
「シリア国民連合」ハディ・バハラ議長(12月13日)

「新政権はシリア国民のあらゆる構成要素を包含するものでなければならないし、非宗教的な基盤に基づくことが必要である。一部の人を政治プロセスから排除するべきではない。
暫定政権が新憲法起草委員会の設立と、シリアにおける安全で中立的な環境の実現をする。そして2年後に新憲法に関する国民投票を実施し、その後に大統領選挙か首相選挙を実施することになる」

全ての武装勢力を解散し、シリア正規軍に集約できるか

首都ダマスカスに侵攻し、アサド政権を崩壊させた「シリア解放機構(HTS)」のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者が12月24日、その他の武装勢力の指導者らと各勢力を解散し、シリア暫定政府の国防省のもとに統合することで合意したとシリア国営通信が報じた。

アサド政権を崩壊させた「シリア解放機構(HTS)」アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者
アサド政権を崩壊させた「シリア解放機構(HTS)」アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者

シャラア指導者は、シリアの再建には国内外のシリア人全員の努力が必要であり、団結して取り組む必要があると強調。そのうえで国家以外の武装は認められないとして、全ての武装勢力の戦闘員はシリア国防省に加わり、部隊はシリア正規軍に集約するとした。

また、2025年3月1日まで統治を担うシリア暫定政府を樹立し、北西部の支配地域を率いてきたムハンマド・バシル氏を首相に任命。バシル氏は12月10日、アサド政権の閣僚も交えて閣議を開き、政権委譲の手続きを決定した。

シリア暫定政権の初閣議(12月10日)
シリア暫定政権の初閣議(12月10日)

いまのところ平和的に政権委譲が進んでいるが、これは反政府勢力「シリア解放機構」が主導している点が大きく、そのほかの武装勢力の思惑が入っていないため混乱がないとみられる。

しかし、12月24日に合意した武装解除にはシリア北東部を実効支配するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が加わっていないとみられ、今も衝突が続いている。2025年3月には様々な組織を取り込んだ政権の樹立を目指しているが、シリアには様々な宗教、宗派があることから、「全ての武装勢力の解散」「非宗教の政策」などで一致できるかは見通せていないほか、SDFと暫定政府との衝突が拡大すれば、これまでよりさらに不安定な状況に陥る可能性もある。国際社会は、包括的で透明性のある政権が誕生できるのか注目している。

初めて祖国の地を踏む子供も…トルコから多くのシリア難民が帰還

トルコにはアサド政権の独裁から逃れようと300万人超のシリア難民がいる。政権が崩壊すると、トルコとシリアの国境では多くの難民がシリアに帰還するために列をなしていた。

国境には午前8時から人が集まり始め、午前10時には行列が連日できている。

トルコ・シリアのジルベギョズ国境(12月10日)
トルコ・シリアのジルベギョズ国境(12月10日)

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2025年1~6月の間に最大100万人のシリア難民が帰国する可能性があるとの見通しを明らかにしている。取材した日も多くの人が集まっていたが、トルコ政府が国境の通過を円滑にできるよう人員を増やすなどの対応をしていたため、混乱はみられなかった。

朝早くから帰国するために並ぶシリア難民
朝早くから帰国するために並ぶシリア難民

トルコから帰国するシリア難民は、「アサドはいなくなり、もう戦争はないから、故郷に帰れる。私たちがシリアを再建する」「シリアに秩序が生まれ良くなると思う。新しい生活を始めることができる」とシリアの未来への期待感を語っていた。

初めてシリアの地を踏む笑顔の子供
初めてシリアの地を踏む笑顔の子供

帰還する避難民の中には、避難先のトルコで生まれ、今回初めて祖国・シリアの地を踏む子供の姿もあった。「初めておばあちゃんに会いに行く。本当に嬉しくてわくわくする」とカメラに手を振ってくれた。

欧米には経済制裁の解除を求める 各国は新政権を見極める動きも

「シリア国民連合」のバハラ議長に今後の課題を聞くと、高い貧困率の原因のひとつになっている欧米からの経済制裁の解除をあげた。

「私たちはアメリカと欧州が科している制裁ができるだけ早く解除されることを期待している。しかしシリアが安定するのか、国連安保理決議に従って政権が樹立するのか、確認できるのを待っている国もある。そのためにも政権は透明性と説明責任に関して国際基準を満たすものでなければならない。制裁を解除する動きが始まるまでには2~3カ月かかるかもしれない」

日常が戻りつつあるシリア北部の街・アレッポ
日常が戻りつつあるシリア北部の街・アレッポ

バハラ議長は、早期の制裁解除に期待を抱きつつも、民主的な政権樹立が先になるとの見解を示した。

日本には復興に向けて技術訓練や投資をしてほしい

最後にバハラ議長に日本に期待することを聞いた。

「日本はこれまで14年間、人道的な分野でシリアの支援してくれているし、シリア復興のためのシリア復興信託基金に加入している。日本に期待するのは基金へのより大きな貢献と、今後はシリアの人々への技術訓練をしてもらえることを望んでいる」

バハラ議長は日本を含む国際社会の協力が不可欠と語る
バハラ議長は日本を含む国際社会の協力が不可欠と語る

50年以上の圧政からようやく解放されたシリア国民。ポイントとなるのは、2025年3月に樹立する新政権だ。二度と同じ過ちが繰り返されぬよう様々な宗教、宗派が協力し合い、協調していくことを願うばかりである。
(FNNイスタンブール支局長 加藤崇)

加藤崇
加藤崇