イスラエルとイスラム組織ハマスによる6週間の停戦が1月19日から始まり、パレスチナ自治区ガザで、市民への支援活動がようやく本格的に再開した。
一方で、イスラエルはパレスチナ難民を支援するUNRWA(=国連パレスチナ難民救済事業機関)の国内での活動を禁止する法律を1月30日に施行させた。支援は継続できるのか、UNRWAの清田明宏保健局長に、今後の対応や課題について聞いた。

医薬品全てを搬入できるか不透明な状況

UNRWA・清田保健局長は1月9日まで、ガザ地区で保健サービスの実施状況の確認などの支援活動を行っていた。取材は、滞在先であるヨルダンの首都・アンマンからリモートで行った。

ヨルダンの首都・アンマンでリモートでの取材に応じてくれた清田明宏さん
ヨルダンの首都・アンマンでリモートでの取材に応じてくれた清田明宏さん
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イスラエルは、UNRWAがイスラム組織・ハマスと関係があるとして、国内での活動を禁止する法律を1月30日に施行。UNRWAとの協力や、接触も断つとしている。

清田明宏保健局長:
ガザ地区での2024年の外来患者数は1000万件で、そのうち600万件は、UNRWAが医療を提供しています。
UNRWAが医療を提供しないと治療が受けられない、必要な薬が受け取れない人が出てくるので、いろんな方法を探しながら、ガザ地区の人たちが今後困らないように支援を継続できる形を探しています。

エルサレム旧市街の診療所前でUNRWA職員と清田さん(1月25日)
エルサレム旧市街の診療所前でUNRWA職員と清田さん(1月25日)

清田明宏保健局長:
医師や看護師はガザ地区内にいるので問題なく、停戦したので、患者さんの治療が止まらないように今医薬品をどんどん中に搬入しています。UNRWAが購入したうちの半分ぐらいが入っていて、残りもいろんな形を探りながら入れていく予定です。
仮に全部の医薬品がガザ地区内に搬入できれば、9カ月以上持ちます。
ガザ地区内部で治療が継続できるようにすることが、活動禁止法の施行に対する一番の対策です。

ガザ北部のUNRWA避難所に医薬品を搬入(1月2日)
ガザ北部のUNRWA避難所に医薬品を搬入(1月2日)

一方で、活動禁止法の施行後は、イスラエルからガザ地区などへの物資の搬入ができなくなる恐れもあり、UNRWAが確保した医薬品が全てガザ地区に搬入できるかは不透明な状況だ。

国際スタッフにイスラエルのビザ発給されず…

法律の施行に合わせて、清田氏のような国際スタッフにはイスラエルのビザが発給されなくなり、イスラエルでの活動が事実上、不可能になった。

そのため、本部機能もあるパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のUNRWA事務所は、一時的に閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれている。

清田明宏保健局長:
今、国際スタッフはみんな、ヨルダンの首都・アンマンに引き上げています。ヨルダン川西岸事務所で働いている300人弱の現地職員は、2ヶ月の自宅勤務になります。
とりあえず2カ月、様子を見て、事務所の再開に向けて考えることにしています。

イスラエルのビザが発給されないためヨルダンで業務を行っている清田さん
イスラエルのビザが発給されないためヨルダンで業務を行っている清田さん

清田明宏保健局長:
(イスラエルが占領している)東エルサレムにある3つの診療所は、イスラエルの保健サービスを受けられない人がいますので、とりあえず医療を提供し続けるということで、今、準備をしています。基本的に法律が施行する30日以降になってみないと分からないところがあり、どういう形になるのかをみて対応を考える、というのが正直な状況です。

消えない戦闘再開の懸念

イスラエルとハマスの停戦は1月19日に始まったが、人質解放の着実な履行のほか、今後、恒久的な停戦に向けた協議で合意できるかは不透明で、戦闘が再開するとの懸念は消えていない。

清田明宏保健局長:
政治状況が非常に悪化して、職員の安全が確保できないことが一番の心配です。命の危険があるけれども、仕事に行ってください、というのは言ってはいけないこと。
仮にそうなれば診療所は開けず、どうやって患者さんに薬を提供するのか、ということになります。

ガザ地区南部・ハンユニスのUNRWA避難所で机もない部屋で授業を受ける子どもたち(12月21日)
ガザ地区南部・ハンユニスのUNRWA避難所で机もない部屋で授業を受ける子どもたち(12月21日)

清田明宏保健局長:
今の停戦が長く続いて、本当の意味の停戦になることを願っていますが、これまでのガザ地区の状況を見ていると、いつ何が起こっても分からないというのがありますので、そういうことも含めて検討している状態です。

UNRWAは「代替組織作ること難しい」

イスラエルはハマスと関係のあるUNRWAの解体を求めるとともに、パレスチナ難民の支援などの役割を、ほかの国際機関に移すべきだと主張している。

清田明宏保健局長:
外来患者の診療を年間600万件行える組織は、現実問題としてないです。
代替組織を作ることは難しく、UNRWAが支援を続けていくしかない、というのが今、我々の立場です。

ガザ地区南部・ハンユニスのUNRWA臨時診療所。テントはUNICEFからの寄付。
ガザ地区南部・ハンユニスのUNRWA臨時診療所。テントはUNICEFからの寄付。

清田明宏保健局長:
それとともに、現地の人にとってUNRWAは国連を代表する組織で信頼感が強い。医療サービスは住民との連携に基づいていて、関係が良くなければ、きちんとした医療サービスは提供できません。
また、住民との連携ができないと学校もできませんので、組織の帽子を変えたら、それでいいでしょう、というわけにはいかないんです。

ガザ地区南部・ハンユニス地区の臨時診療所にくる多くの患者(12月22日)
ガザ地区南部・ハンユニス地区の臨時診療所にくる多くの患者(12月22日)

清田氏は、イスラエルとハマスが停戦し、ガザ地区内で支援活動が幅広くできるタイミングだからこそ、UNRWAが重要だと訴えていて、国際社会に活動が継続できるようにお願いしたいと話していた。

一方、イスラエル寄りのアメリカ・トランプ政権は、UNRWAの活動禁止法を支持する考えを示していて、今後、UNRWAの支援活動がどこまでできるのか、不透明な状況となっている。

ガザ地区では、2023年10月の戦闘開始以降、4万6000人以上が亡くなっていて、建物の約90%が被害を受けている状況だ。

長期の戦闘により市民は疲弊し、恒久的な停戦、継続的な支援活動が求められているなか、政治的な対立などから、支援団体の活動が制限されることはあってはならない。
【取材・執筆=フジテレビ イスタンブール支局 加藤崇】

加藤崇
加藤崇