パリジェンヌの足元に白いスニーカー

今も変わらぬファッションの世界的発信地パリ。街角でおしゃれなパリジェンヌとすれ違うこともしばしばである。それも、最先端のモードに身を包んで人目を惹くのではなく、ベーシックなアイテム使いの中にも組み合わせの妙でさり気なく自分なりのおしゃれを演出することに長けているのが、年齢を問わずこの街の女性たちの服装術なのである。流行を追うのではなく、自分の個性を服装にも反映することに重きを置く彼女たちの足元に、実はここ最近異変が起きている。

パリジェンヌの足元の定番といえば、黒い靴や黒のブーツである。特に秋・冬の時期には、黒のロングコートに合わせた黒い靴たちが思い思いにパリの石畳を闊歩する。

ところが、ここ1~2年の間に、とある白いスニーカーを履く女性たちの姿が著しく増えたことに気づいた。歩きやすそうなゴム製のソール(靴底)を備えたそのスニーカーの側面には特徴的な「V」のマーク。

ピンクや黄色など鮮やかな色遣いの「V」もあれば、白のボディーに馴染む薄いグレーなどバリエーションが豊かだ。かかとには「V」マークと同色の縁取りにブランドロゴが白抜きで施されているので、後ろ姿でもこのスニーカーとわかる。

VEJAスニーカー
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日本ではあまり見かけないこの「V」のスニーカーは、フランスで多くの女性たちに受け入れられているようだ。外出すれば、このスニーカーを履いた女性たち―それも、年齢層やファッションの傾向を問わず―を必ず見かけるのである。流行を追いかけることをよしとせず、日本のような「ブーム」がないパリの女性達がこぞって着用するこの白いスニーカー。フランスらしからぬ人気の秘密は何だろうか。

調べてみると、これは、「サステナブル」を前面に打ち出すフランス発のブランドであることがわかった。ブランドのウェブサイトには、「ブラジルの契約農家が生産したオーガニックコットンや、アマゾンに自生する天然ゴムを主原料に、廃棄物をリサイクルした副素材をふんだんに使用」などとある。おしゃれで個性的なブティックが散在するパリ・マレ地区にある路面店は、真っ白な外観がひと際目を惹く。

シンプルな内装に作りつけの棚はリサイクル紙で作られたという。棚にはたくさんの白いスニーカーが並んでいる。週末、この店の前には新型コロナウイルスへの不安もよそに、多くの老若男女が我も我もと列をなす。

VEJAのパリ・マレ店に並ぶ人々

このスニーカーを実際に愛用するフランス人女性たちに話を聞いてみると、履き心地やデザインだけではなく、やはりエコを重視するブランドイメージ、「サステナブル」な製品作りに大きな価値を見出しているようだ。いわゆるセレブリティが着用したことで人気がさらに拡大したという面もあるようだが、ブランド側の狙いが大当たりし、その結果、パリジェンヌ達の足元に変化をもたらしている格好だ。

ファッションの「サステナブル」化にコロナも影響

さて、ファッションの「サステナブル」化は、フランスでもこのように一般の消費者を巻き込んで大きな流れとなりつつあるわけだが、その背景には様々な要因がある。

今年2月、フランスの議会下院にあたる国民議会では、衣類を含む幅広い分野で売れ残り品の廃棄を禁止する法案が可決され、成立した。この法律の効果については疑問視する指摘もあるが、「サステナブル」なファッションに対する人々の意識向上には貢献したようだ。

また、新型コロナウイルスの感染拡大も、ファッションの「サステナブル」化に影響を与えている。今年夏に行われたパリ・コレクションは、感染拡大を防ぐため完全にオンライン化された。毎シーズン、世界各国から多くのジャーナリストやバイヤーなどがパリに訪れるこのイベントに対しては、こうした人々の移動に伴い航空機などから排出される温暖効果ガスが、気候変動対策・脱炭素社会に向けた潮流に反しているという批判がかねてからあった。コロナウイルス対策のため、結果的に「サステナブル」なパリコレが実現した形だ。この秋のパリコレも、引き続き一部がオンラインで開催され、感染症対策だけではなく、「サステナブル」という観点からもこうした流れが定着・拡大するのか注目される。

「ファッションはあらゆる危機に適応できる」

再び足元の話題に戻ることになるが、創業から130年以上の歴史を持つ高級紳士・婦人革靴メーカー「J.M. WESTON」を率いる会長ティエリー・オリエズ氏が、「サステナブル」をテーマにFNNのインタビューに応じてくれた。

フランスの歴代大統領や企業家・文化人に愛用され、現在は世界中に50店舗以上、日本にも東京や大阪などに店舗を構える老舗ブランドだ。

J.M.WESTONの革靴は、良質な革とその丈夫さで知られ、また、製法上、靴底を張り替えれば数十年にもわたり着用できるため、もともと「サステナブル」な面がある。同社では、一足の靴を長く大切に履いてもらうため、年間1万足以上の修理を行っている。

J.M.WESTON パリ=シャンゼリゼ店

さらに、今年、古くなった靴を顧客から買い取って修理し、店舗で再び販売する新たなサービス を開始した。「ウエストン・ビンテージ」は、使われなくなった靴に「第二の人生」を与えるものだ。

靴箱の中で眠っている靴を集め、歴史が刻まれた風合いはそのままに、フランス中部リモージュにある工場で新たな命を吹き込まれる。機能面はしっかり補修を施しながら、靴が辿ってきた歴史を受け継ぎ次の持ち主に伝えていくのが、「ウエストン・ビンテージ」だ。

在庫の規模は世界中から集められる靴の数量次第であり、今となってはもう幻のモデルもある。中には、50年ものもあるそうだ。

「ウエストン・ビンテージ」生まれ変わった靴たちは次の持ち主に受け継がれていく

オリエズ会長は言う。

「『サステナブルファッション』というのは、少し逆説的なコンセプトです。なぜなら、ファッションというのは常に進化しながら変化していく、ダイナミックな動きだからです。ファッションが全く動かない、完全にストップされたものだと想像できませんが、ファッションの進化を遅らせることはできると私は思います」

ファッション業界が環境に与えるインパクトは極めて大きい。

「Tシャツ1枚を作るために600リットル、ジーンズ1本には2000リットルもの水が必要なのです。ファッション界は、世界のCO2排出の10%と、世界の水消費量の20%を占めています。これは莫大な数字です」

消費者の側にも問題がある。

「60%のフランス人が、買ったものの一度も袖を通していない服があると答えています。また、2回~4回着ただけでそれ以降着ないということもあります。リサイクルされている服はごく僅かです。アメリカでは、1500億ドル相当の服が倉庫に眠っています。服を洗うだけで毎年50万トンのマイクロプラスチックが海に流れていきます。従って、ファッションはあちこちで環境に影響を与えているし、その影響は甚大です。違った(形の)ファッション、大量に消費せず、良質なものを巧妙に長く使いこなすようなファッションに向かう必要があります」

パリ・コレクションがオンライン化されたことについては、
「時代や時間が経っても、ファッション界の危機に適応する能力は素晴らしいと思います。(ファッションショーのオンライン化)はとても自然なことに思えたし、ファッション界が強く反応したことには驚きませんでした。」

「衣・食・住」と言われるように日常生活の基本的な要素でありながら、一方で、儚く移ろいゆく流行や大量生産・大量消費のイメージも付きまとうファッション。その狭間で、「サステナブル」の潮流は人々の意識や行動を静かに、しかし着実に変えつつあるのかもしれない。そうした期待感が膨らむ。

NIKEパリ・レアル店のマネキン

写真は、パリ中心部にある大型ショッピングセンター内にある大手スポーツウェアブランドの店舗。ここで商品を着ているのは、長身痩躯のマネキンではなく、様々な体型の個性的なマネキン。日本ではあまり見かけない売り場の光景が新鮮である。体型や心身のハンディキャップなど、現実に生きている人々の多様な姿に合わせたデザインや機能を持つ服を「アダプティブ」(適応する)ファッションと呼ぶようだ。画一的な基準で作られた服に人間が合わせるのではなく、ファッションの側が人びとの個性に適応するということだろう。いわゆる「ダイバーシティ」(多様性)を受け入れる流れの一環といえる。

ジェンダーやセクシュアリティなど、社会で伝統的に構築されてきた基準と、人びとが自分らしく生きることとの間で、私たちの価値観が日々揺さぶられ葛藤を抱えているこの時代。「サステナブル」や「ダイバーシティ」といったファッションの潮流が、どのような未来につながるのか。日を追うごとに秋色を増してシックな装いの女性たちが行き交うパリの風景を前に、そんなことを考える。

【執筆:FNNパリ支局長 石井梨奈恵】