14歳にしてヤングケアラーとなった女性。一度はあきらめかけたものの海外に活路を見出し、マンガ家になる夢を見事に叶えた。
マンガ家を志した少女はヤングケアラーに
静岡県富士市に住むマンガ家の小泉清美さん。

これまでに手掛けた作品はいずれも海外で出版している。
3歳の時、父にノートを買ってもらったことをきっかけに絵を描くことが大好きになったという彼女は、10歳で初めて人気少女コミックに4コマ漫画を投稿した。
マンガ家になる夢に向かって歩み始めた小泉さんだったが…14歳にして突然、ヤングケアラーに。

「ちょうど中学2年生の頃、母親が脳梗塞で半身まひになり介護生活が始まった。父親も体が弱く入退院を繰り返していたので、どうしても私が母の面倒を見ることが多くなった」と当時を振り返る。
介護の現実に打ちひしがれるも立ち上がる
それでも介護の傍ら唯一の楽しみだったマンガの執筆は続け、21歳の時には念願だったスクウェア・エニックスマンガ大賞で少年マンガ部門の佳作と審査員特別賞をW受賞した。
しかし、介護があるため「決まった月刊・週刊の締め切りに間に合わせて作品を描くことは難しいとわかった」と話す。
失意の中、小泉さんが目を向けたのが海外だった。

マンガ文化がそれほど浸透していない国に活路を見いだし、2013年にはインドでクリケットを題材にしたデビュー作を出版した。

2024年にはエジプトでの出版にもこぎつけ、現在は新作の制作に取り組んでいて「日本人の忍者がエジプトに赴任してきて、仲間と一緒にこれから事件に取り掛かろうというところで、エジプト人の男の子に出会って、一緒にタッグを組み冒険に出るシーンを描いている」と教えてくれた。
文化や宗教感の違いをケア
海外での出版に当たって気を配っているのは文化や宗教観の違いだ。

「エジプトは特に政府による出版物の検閲があるので、最初は過激な内容を描いていいのかどうかとか、女の子はイスラム教では肌を見せてはいけないので、ミニスカートやタンクトップは描かない」といった配慮を怠らないと話す。
また、国を取り巻く情勢の変化から出版が突如取りやめになる可能性もあるため現地の生の声を聞く情報収集は欠かせない。

エジプト在住の須藤真希さんに現地の状況を質問すると「『ドラゴンボール』や『鬼滅の刃』などが書店にあるが、すごく高い。電子書籍が広がったらもっと読む人が増えるのでは」と返ってきた。
新たなチャンスを求めて
この日、小泉さんが訪れたのは世界各地からバイヤーが集まる国内最大級の模型の展示会「静岡ホビーショー」。

新たな国での出版を見据え、各国で人気を集めるコンテンツや日本のマンガの認知度などを調査するためだ。
ここで出会ったのが自身もマンガ家というドバイから来た男性。

小泉さんが「日本のマンガ家とドバイのマンガ家や企業とコラボレーションの可能性はありますか?」と質問するとドバイ在住のマンガ家・カイス・セドキさんは「ドバイのマンガ家や企業は状況に大きく左右される。一般的に言えば中東は常に日本に興味を持っているし、日本も中東に関心があると感じる。だからいつでもコラボレーションの可能性はあるが、状況次第」と可能性を感じさせる答えが返ってきた。
さらにセドキさんは「(小泉さんは)素晴らしいと思う。もっと彼女のマンガについて知りたいと思った。アラビア語のコンテンツに合わせたマンガを見るのはとても素敵で大好き」と付け加えた。
その後も小泉さんは多くの来場者と交流を図り、駐日サウジアラビア大使とも意見を交わした。

「思い描いていた未来よりかなり面白くて、豊かで、楽しい展開になっている。」手応えを感じた様子の彼女は「今後は周りの特に若いクリエーターを巻き込んで一緒にコラボレーションして私が縁をもらったエジプトやアルジェリアに出かけたり、作品を描いたりと一緒に活動できる仲間がほしい」と抱負を語った。

一度はあきらめかけたマンガ家という夢。それでも自らの力で道を切り開いた小泉さんの挑戦はこの先も続いていく。
(テレビ静岡)