戦後８０年、戦争体験者が急速に減っていく中、記憶の継承が切実な課題となっています。次の世代にどう伝えていくか、継承の「今」を考えます。
「おい爆弾だ！目と口をおさえて伏せろ」県内最大の戦争遺跡・亀島山地下工場跡が残す戦時中の面影
（千葉知里記者）
「こちらが亀島山地下工場の跡地内部です。壁には当時掘られたと思われる穴などが残っていて、当時の面影が色濃く残っています」
岡山県内最大の戦争遺跡として知られる倉敷市の亀島山地下工場跡。トンネル内は普段は立ち入り禁止ですが、今回、特別にその中へ入ることができました。
水島コンビナート近くに位置する亀島山の地下に広がる工場。太平洋戦争中、激化する空襲の被害を少なくしようと当時の三菱重工業水島航空機製作所が疎開させた工場の一つです。
１９４５年６月２２日、アメリカ軍のＢ２９、１１０機によって、６０３トンもの爆弾が投下され航空機製作所は壊滅。従業員ら１１人の尊い命が奪われ、４６人が負傷しました。
水島空襲の壮絶な「記憶」を次の世代へ…語り継ぐ９３歳の空襲体験者
あの日から８０年。６月２２日に行われた水島空襲の追悼式に空襲体験者の姿がありました。
（岡野弘さん）
「「ガラガラともヒューヒューとも何とも言えない音がしてきた。先生が「おい爆弾だ！麦畑へ入って目と口をおさえて伏せろ」と言った。爆弾がドドーンと落ちてきた。いつやられるかも分からず本当に顔面蒼白。手はブルブル震えて爆弾が来るのではないかと恐怖におののいていた」
倉敷市に住む岡野弘さん（９３）。当時、中学２年生だった岡野さんは１キロ先の麦畑で空襲に遭いました。
（岡野弘さん）
「あの辺りから飛行機が来て真上に着た時に爆弾が落ちた。怖かった。とにかく防空頭巾をかぶって麦畑に伏せて目を開けてはならなかった」
岡野さんは壮絶な「記憶」を次の世代へ伝えていくため、精力的に講演活動を行い、亀島山地下工場の戦争遺跡としての保存活用を訴えています。
（岡野弘さん）
「８０年の節目の年でもういいやではなく、８０年があれば次は９０、１００年がある。世界も様子が変わって来て平和が崩れることもあるので、戦争はすべきでないという、そのための礎になれば良いなと」
”コンクリがもげて鉄骨がむき出し”戦時中の水島の歴史を知った地元の子供たち「無知ではいられない」
６月１４日、水島地区であるツアーが開かれました。
（亀島山地下工場を語り継ぐ会 村田秀石さん）
「これは８０年前の戦争中に造ったものです。見てください。コンクリがもげて鉄骨がむき出しになっているでしょう」
参加したのは県内の小学生から高校生までの４人。戦時中の水島の歴史を伝え、平和について考えてもらおうと、岡山ユネスコ協会が企画しました。
冷たく、重い空気の残る工場跡の入口で、子供たちは説明を聞きます。
（村田秀石さん）
「幅が約６メートル、高さが約４メートル。この大きさが基準だった。それがずっと奥まで続いている。トンネルの全体で約２キロある」
「部品や人手不足であまり仕事ができなかった。（１９４５年）６月２２日の水島空襲で工場は全滅する」
（高校生は…）
「実際に工場が動いている現場を目の当たりにしたわけではないが、物々しさが残っていて、（工場が）あったのだということを体感した」
「岡山にいながらも水島についてはあまり知らなかった。今も色々なところで戦争が起こっていて無知ではいられないと思った」
戦争の記憶を「語り継ぐ使命・責任が平和のためには必要」戦争を経験していない子供たちに芽生えた使命感
ツアーの最後に、平和のために自分たちができることを考え、まとめました。
（中学生は…）
「戦争が終わっても傷を癒やすことができず残り続けてしまう、とても恐ろしいものだと話を聞いて改めて実感した」
（高校生は…）
「戦争の状況や大変な思いをした人の記憶を残す。そして戦争を経験していない私たちがそれらを知って語り継ぐ使命・責任が平和のためには必要だと思った」
（村田秀石さん）
「自分自身も戦争を体験していない。でも、語り継いでいかなくてはならないと思って活動を続けてきた。私たち自身も高齢化している。今やっているガイド活動などをどのように次へつなげていくのかを考えていかなくてはと思った」
戦争を知らない世代がさらに次の世代へ…。「記憶」の継承の模索は続く
実体験を語る証言者が急速に減っていく中、戦争を知らない世代がさらに次の世代へと語り継いでいく。８０年間積み重ねてきた「戦後」を新たな「戦前」にしないために・・・。「記憶」の継承の模索は続きます。
（岡野弘さん）
「後世に残す意味で子供たちが少しでもおじいちゃんがこういうことをやっていたんだと。自分はもう戦争はしないという気持ちになってくれたらと思う。繰り返し伝えていくことが自分の残された人生の使命だといつも思っている」
