時代と共に変わる富山の観光案内 〜「るるぶ」で見る30年の変化〜

外国人観光客の増加とともに、富山県内の観光地の姿も大きく変わりつつある。旅行雑誌「るるぶ」富山版を通して、30年前と現在の観光地を比較すると、その変化が鮮明に見えてくる。
写真からガイドブックへ、進化する旅行雑誌

「るるぶ」富山版が発行されておよそ36年。最新版と1995年発行版を比べると、その変化は一目瞭然だ。高岡市の紹介ページでは、最新版は目を引く大きな「映え写真」が特徴的で、ビジュアル的に楽しめる印象を与えている。
JTBパブリッシングの星野織絵さんは「2010年から今に続く流れでは、必ず日帰りや1泊2日の王道モデルプランの特集をしていること。提案へという形に、本のつくりが変わってきている」と説明する。
単なる情報提供から、より具体的な旅行プランを提案するガイドブックとしての役割を強めていた。この変化は、この30年で「個人旅行」を楽しむ人が増えたことと無関係ではない。
宇奈月温泉の今昔 〜消えた「パノラマ客車」と「紅ざけちまき寿し」〜
宇奈月温泉の魅力として30年前も現在も大きく取り上げられているのが黒部峡谷鉄道のトロッコ電車だ。当時の利用者は現在より多い年間100万人を超えていた。

当時運行されていた4種類の電車のうち、現在では見られなくなった「パノラマ客車」というデラックスな客車があった。黒部峡谷鉄道の谷本悟さんは「パノラマ客車は残念ながら今はもうない。箱型の車両だが、天井部分もガラスになっていて、座ったままでも黒部峡谷の山々を見上げることができた。すごく視界が広く、景色の見やすい電車だった」と懐かしむ。

また、30年前の「るるぶ」には「紅ざけちまき寿し」という名物も紹介されていた。中島観光百貨店の中島昭彦社長は「昔はあった商品ですけど、いまこれはない」と語る。コンビニエンスストアが現代ほど多くない時代、「電車の中で大きなます寿しを開いて食べるよりも気軽に食べられる商品であった」という。
変わらぬ魅力を守り続ける店も
一方で、時代の変化に関わらず変わらない場所もある。宇奈月温泉で長年営業している「カフェモーツァルト」は、30年前の「るるぶ」にも「優雅なBGMでちょっとひと休み」と大きく紹介されていた。
店主の能勢実さんは「ぜんぜん変わっていない。変えていない」と話す。メニューも店の雰囲気も変えずに営業を続けており、道具も昔からのものを大切に使用しているという。
能勢さんは「どんな時代が来ても変わらないものがあるでしょう。自然は変わらない。不動のもの。この美しい自然があるから、そうやって100年を繋いできた。客も楽しんでいるので、ほんとにうれしい、いい時代にしたいなと思う」と語る。
個人旅行者向けに進化する観光案内
宇奈月温泉でも個人旅行が増える中、最新の「るるぶ富山」では4ページにわたり「温泉街まちあるき」と題して宇奈月温泉の新たなスポットを紹介している。
カラフルで「映える」デザインだけでなく、「立ち寄り湯や足湯などを巡りながらおさんぽしよう」という言葉使いも、ストーリー性を持たせ個人への訴求力を高めている。

ホテル黒部の中島ルミ子女将は「インスタを見て、来てみたかった人が結構いる。今は個人の客がメインで観光しに来ている」と現状を語る。

観光地の変化とともに進化を遂げる旅行雑誌は、情報を伝えるだけでなく、旅そのものを提案する役割へと変わっている。そこには、富山県内の観光地の魅力を伝えるヒントが隠されているようだ。