国税庁は、令和6年(2024年)度に調査した脱税事件の手口を公開した。全国の国税局査察部―通称「マルサ」は、日々、悪質な脱税者との攻防を繰り広げている。
脱税による不正な金は金塊や株に姿を変えたり、現金のままあらゆる手口で隠され、意外な場所に眠っているのだ。

物置の金庫に…7億円超

ある事案でマルサが目を付けたのは、物置部屋だ。

発見された金庫の重厚な扉を開けると、ぎっちりと札束が詰め込まれている。この金庫には約7億3000万円もの現金が隠されていた。

約7億3000万円もの現金が隠されていた、物置部屋の金庫
約7億3000万円もの現金が隠されていた、物置部屋の金庫
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 さらにこの人物は、自宅のスーツケースにも手をかけていた。紫の帯でくるまれた1千万円の束が、ずらりと並んでいる。ここにも1億円を隠し持っていたのだ。

スーツケースの中に、一千万円の札束がずらり
スーツケースの中に、一千万円の札束がずらり

他にも、ビニール袋や封筒で小分けにした札束を、スーツケースに入れて自宅に隠していたケースが散見された。

現金を身近な場所に置いておきたい、かつ動かしやすい状態にしておきたい、といった意図が感じられる。

ビニール袋や封筒に小分けにした札束を、スーツケースに隠していた例も
ビニール袋や封筒に小分けにした札束を、スーツケースに隠していた例も

 このように脱税によって不正に得た金は、現金で保管されていたほか、株や暗号資産、競馬や高級クラブなどにつぎ込んでいた事案があったという。

過去には“動く押し入れ”も

脱税による不正な金は、あらゆるカラクリの中に隠される。

ある国税関係者が「ここ最近で一番記憶に残っている」と話すのは、2016年度の調査で発覚した“動く押し入れ”の隠し金庫だ。

押し入れには金庫が1つ。怪しいものは特に入っていなかったが…
押し入れには金庫が1つ。怪しいものは特に入っていなかったが…

マルサが関係者の自宅を訪ねた際、押し入れの中に金庫が1つあった。中には宝石の鑑定書…ほかに怪しいものはない。

しかし、自宅からある業者との契約書を発見。
業者が作ったとみられるリモコンを操作してみると、押し入れの床がせり上がり、2つの隠し金庫が現れたのだ。

リモコンを操作すると、なんと床がせりあがって隠し金庫が現れた
リモコンを操作すると、なんと床がせりあがって隠し金庫が現れた

こうして床下の隠し金庫からは、現金1億600万円ほどが見つかった。

 ある国税関係者によると、過去には庭の木の下に金の延べ棒が大量に埋まっていたことがあったという。

床下の隠し金庫には現金1億600万円ほどが入っていた
床下の隠し金庫には現金1億600万円ほどが入っていた

事件関係者が自白し、重機で木の下を掘り起こしてやっと発見されたのだと困ったように話した。

インフルエンサーやライバーの脱税告発も

国税庁によると、2024年度は98件を検察庁に告発。脱税総額は約82億円にのぼった。

中でも輸出免税制度を悪用し、高級腕時計を輸出したとウソの申告をするような消費税の不正受還付事案の告発が17件と、過去10年で最多だった。

また、SNSで多額のアフィリエイト収入を得るインフルエンサーや、動画配信業を行ういわゆるライバーなどの告発も目立つという。

国税庁は今後も、社会変化に沿った影響の大きい事案の告発を積極的に進めるとしている。

カネの在りかをどうつきとめる?

事件関係者があの手この手で調査の手を逃れようとするなかで、マルサはどのようにカネの在りかをつきとめるのか…筆者が問うと、国税庁調査査察部・大野由希査察課長はこのように話した。

「相手の挙動や目線から、不正資金の隠し場所を見抜くケースもある」事件関係者に対して芯のある質問を重ね、調査の基本動作を愚直に積み上げることで現金を発見できたという。

悪質な脱税者に対して刑事責任を追及するべく、今日も全国でマルサが目を光らせている。

【取材・執筆=フジテレビ社会部・小溝茜里】 

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