夏の厳しい暑さは、もはや異常気象ではなく、毎年、全国各地で“当たり前”になった。こうした中、国は、2025年6月から職場での熱中症対策を企業に義務付けた。熱中症から命を守るため、建設現場で生まれた新たな食品が話題となり、設業界以外にも広がりをみせている。
熱中症被害「建設業」が最多
梅雨入りし、各地で雨の日が多くなっているが、気温は既に、30度を超える真夏日となる日も多く、特に、建設現場で働く人達は、厳しい暑さの中での作業を余儀なくされている。

「作業環境的には、年々苦しくなってきている」「今は、梅雨の時期だが、蒸し暑さは、現場で働く者からすると辛いね」と日々の体験からくる厳しい労働環境について率直な思いを口にする。

真夏の炎天下でも工事を止めるわけにはいかない建設現場。発注元が経費削減などで、工期を短く設定することもあり、下請けや孫請けの作業員が無理をして働くケースも少なくないという。また、閉ざされた空間での作業も多く、梅雨の時期特有の湿気も頭を悩ませる問題だ。

厚生労働省によると、熱中症が1番多い業種は「建設業」で、2020年から2024年までの死傷者は、961人にのぼり、このうち54人が死亡。建設業界では、熱中症から命を守る対策が喫緊の課題となっている。

ゼネコンが作った塩分補給ゼリー
こうした中、福岡の電気工事会社「リオス」が、熱中症対策として行っているのが、塩ゼリーの配布。その名も「ゼネコンがつくったしおゼリー」だ。

建設業界だけでなく、一般の消費者にも人気が広がっている商品で、リオスでも熱中症対策の一環として、6月から作業員に配るようになった。「私がもらったのは、ライチ味ですが、味が付いているから食べやすい」「ドリンクではなく、自然に補給できるのが一番いい」など、ゼリー状なので食べやすく、手軽に塩分摂取できると作業員達にも好評だ。

人気の熱中症対策商品を作っているのは、北九州市若松区の「佳秀工業」。普段は、化粧品や健康食品の原料を生産しているが、大阪のゼネコン「三和建設」から依頼を受け、2025年から「しおゼリー」を手掛けるようになったという。

「我々も製造現場なので、熱中症対策のアプローチが面白いなと共感した」と佳秀工業の松木貴洋さんは、製造を請け負った理由を語る。

そもそも「三和建設」は、ゼネコンでありながら、なぜ、「しおゼリー」という食品を開発したのか?きっかけは、現場監督などの経験も豊富な三和建設の幹部が、年々厳しさを増す建設現場の過酷な環境を何とかしたいとの思いから、『喉を通りやすい塩分補給食』を考えていた。

そんな中、東京の栄養食品加工「岩瀬コスファ」と共同で、「しおゼリー」の開発に至ったという。当初は、社内向けに作ったが、「現場目線の熱中症対策」として、メディアに取り上げられ、会社に問い合わせが相次ぐようになり、2021年から一般向けに販売を開始した。

味は5種類 塩分+必須アミノ酸も
味は、レモンやリンゴ、ブドウなど全部で5種類。スティック1本10グラムに約0.15グラムの塩分や必須アミノ酸BCAAが含まれている。

口に入れると、想った以上に塩味を感じる。「建設現場で食べて頂く分には、ちょうどいい塩分だと思う。汗を一杯かいて喉が渇いている時に美味しく食べて頂けるように処方を組んでいる」と話すのは、開発に携わった「岩瀬コスファ」の星山仁史さん。「凍らしたり、冷やしたりして食べるのが1番のお勧め。キシリトール配合で爽快感がある他、炎天下に晒される作業員のため、肌のバリア機能を高める美容成分も含まれている」と話す。

星山さんは、「スティックゼリーの商品に携わって長いが、塩を配合したゼリーは初めてで、非常に面白い製品だなと思い、開発にも力が入った記憶がある」と当時を振り返る。

「しおゼリー」命を守る必需品に
人気は、徐々に広がり、2024年夏には、一部の味が品切れとなる事態になったことから、2025年は、生産体制を拡大。北九州市の佳秀工業に委託することで、年間の生産本数を去年の約1.9倍の150万本に増やす計画だ。

「三和建設」の北纓真弓さんは、「お出かけ前に『ハンカチ持った?しおゼリー持った?』というような使われ方をして頂だければと思っています」と『しおゼリー』を夏の必需品として、日々の生活に定着させたい考えだ。

過酷な環境で働く建設現場の作業員を暑さから守るために生まれた「しおゼリー」。熱中症から命を守る夏の必需品として、活躍の場は、気温の上昇と共に更に広がりをみせそうだ。
(テレビ西日本)