ツル越冬地として知られる鹿児島県出水市のホールに6月、ある男性の力強い歌声が響いた。声の主は末期ガンで2025年3月までの余命宣告を受けていた51歳の小学校教師。闘病しながらも熱い歌声を届けた男性教師と、ライブを企画した教え子や保護者の姿を追った。

ライブの主役に宣告された“余命” 

2025年6月8日、出水市のマルマエホール出水。650人を超える観客を前に、ギターを弾きながらプロ顔負けの歌声でKUWATA BANDの「スキップ・ビート」を熱唱する男性。

先生の愛称は「たかしまっちょ」
先生の愛称は「たかしまっちょ」
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小学校教師、高島芳倫さん51歳。子供たちや保護者から「たかしまっちょ」の愛称で親しまれている。

大学では美術を専攻したが学生時代に友人の影響でギターを始め、路上ライブやイベントで披露してきた。

29歳で小学校教師の道へ。4校目の赴任先となった出水市・西出水小学校時代の2022年1月。48歳の高島さんを異変が襲った。

膵臓ガン。一度は手術を受けたがその後再発が確認され、医師からは2025年3月までの余命を宣告された。

「病気や元気のない人たちに勇気を」ステージに立つ思い

高島さんのライブはがんを宣告された翌年の2023年以来。この時は病気に負けずに「奇跡を起こしてほしい」と企画された。2年後の今回は、宣告された余命を超え、高島さんが元気に過ごすことができるようにとの願いが込められている。

ライブ3日前。本番前最後の実行委員会に集まったのは、西出水小学校時代の教え子の保護者を中心としたメンバー。 副委員長の本田勝さんは「先生のためにと思っているが、まわりは逆に力をもらえると期待をしている人もいる。しっかりできる準備をして、本番に備えたい」と語った。

初ライブから2年。高島さんは抗がん剤治療もやめ自宅で療養している。余命宣告の時期を乗り越え、再びステージに立つ意味を問うと、高島さんからこんな答えが。

「(会場に)立つのは自分だという感覚はなく、例えば『病気や元気のない人たちに勇気を与えてくれるという人がいるらしい』と。そのための力として僕も力を貸す感覚で、スタッフの一人というような感覚になっているからこそできる」

教え子たちも準備に協力 実行委員会は成功を確信

ライブ前日。会場で準備が進んでいた。教え子たちも集まり、ロビーの飾り付けや、高島さんが描いた油絵、ゆかりの人々の作品も展示されていった。

準備にかけつけた教え子はこう語る。「一番は、恩返しが強いかもしれません。みんなが楽しめるライブにしたい」「先生にはお世話になり、準備を手伝いに来た。元気な姿を見たいです」

病に立ち向かう“たかしまっちょ”のために。熱い気持ちが伝わってくる。

実行委員長の井川知明さんも「妥協せずに、一人一人と真剣にお付き合いしてくれるので、高島先生には(人が)付いてくる。あしたも大成功、間違いないと思っている」と意気込みを語った。

“魂の歌”15曲 最後は会場がひとつに 

6月8日。ライブ当日。会場を訪れたのは県外や離島からの人も含め650人以上。これまで勤務してきた学校の関係者や、人づてに高島さんの活動を知った人たちだ。その一角には、大学の後輩でギターを始めるきっかけを作った友人、笹河博幸さんが祈りをこめて制作した作品も。

会場を訪れた笹河さんは「すごいなぁ、奇跡が起きてるなあ、というのがいろんな人の勇気になっていると思います」と感慨深そうに話してくれた。

さあ、ライブが始まった。高島さんは観客の手拍子に手を振って応え、客席からステージへ。手渡されたギターを肩にかけ、こう呼びかけた。

「支えてくださる人、励ましてくださる人、信じてくれている人のおかげで、正に生かされている。裏切れないですよね。応援よろしくお願いします!」

客席から温かい拍手が起きた。

ライブでは、ソロを含め、尾崎豊、Mr.Childrenの曲など計15曲を披露した。

高島さんがギターを、妻の真紀さんがキーボードを弾き、2人の子供たちが歌声を披露する場面も。

ラストを飾るのは、ゆずの「またあえる日まで」。実行委員などスタッフも舞台に上がり、手拍子をしながら一緒に歌った。

宣告された余命を超え、魂の歌声をホールに響かせた高島さん。歌詞の言葉の通り、またあえる日を誓い、最後は観客も巻き込んで会場全体が一つになった。

「ありがとうございました! 長い間本当にありがとう!」手を振り元気な声でお礼を言った高島さん、最後は感極まってそっと目頭をぬぐい、深々と頭を下げた。温かい拍手が続いた。

「言葉にならないですよね。会場のみんなの命を背負って歌ったような気分でした。命の時間をたがいに共有し、少なくとも僕はありがたい時間だったが、みんなにとっていい時間だったら良かったと思いました」終演後、高島さんはこう振り返った。

“奇跡”信じて 終演後も観客と交流続く

ロビーには、高島さんから勇気や元気をもらおうという観客が長蛇の列。ライブの熱はなかなか冷めなかった。

熊本県から訪れた人は「すごいなと思って、心に残りました。忘れません。元気でまだまだ、2回3回(ライブを)やってほしいです」、奄美勤務時代の教え子も「先生は(病気に)負けていなかったので、今後も奇跡が起こると信じている」と、熱いエールを送っていた。

教師と教え子や保護者たちの絆が一つの形になったライブ。
多くの人を勇気づけた高島さんの演奏がまだまだ聴けることを願わずにはいられない。


(鹿児島テレビ)

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