大阪・ミナミの超一等地を舞台に起きた地面師詐欺事件。
「newsランナー」では事件の関係者たちに独自に接触。
見えてきたのはまるでドラマの世界を地で行くような巧妙な手口だった。

■大阪ミナミの超一等地で起きた地面師集団の交渉の裏側とは
先週、大阪で起きた土地取引を巡る詐欺事件。逮捕された男たちは去年、大ヒットとなったドラマで知られるようになった「地面師詐欺集団」だとみられている。
詐欺の舞台となったのは大阪ミナミの超一等地。
今回、関西テレビは事件の関係者に独自に接触。
建物の管理業者:現実的にありえないと思ってたので。
地面師集団の交渉の裏側に迫った。

■巨額のカネをだまし取ったとされる手法は「地面師詐欺」
東大阪市の会社役員・福田裕容疑者(52)は、去年2月から3月にかけて土地取引を巡り14億以上をだまし取った疑いなどで逮捕された。
14億もの巨額のカネをだまし取ったとされる手法、それは「地面師詐欺」。
いわゆる”地面師詐欺”とは他人の不動産の所有者になりすまし売買代金を騙し取ること。
事件の舞台となったのは…
記者リポート:難波駅から約10分歩いた通りです。ビルが多く立ち並び飲食店飲み屋が多く集まっています。ミナミの中心地といった所です。この奥に見えますのが地面師詐欺に利用された物件です。

■決して売りに出ない”超一等地”として知られた存在
大阪ミナミにある3棟のビル。
決して売りに出ない”超一等地”として知られた存在だったと物件の近くで働く人物は語る。
物件の近くで働く人:まったく売りに出ないって話は周辺で有名。もう10年近くなる。
なぜ売りに出され無いはずの土地が売られていると信じ込ませることができたのか。
その巧妙な手口が取材で明らかになった。

■指示役、実行役、サポートする役と役割分担されていた
グループは詳細に役割分担がされていた。
福田容疑者は指示役。ほかに逮捕された粂容疑者は実行役として、偽造された印鑑登録証明書などを使ってウソの登記変更をし本来の土地所有会社の代表になりすましたとみられる。
さらに60代の女はこの嘘の申請をサポートする役として行動していたということだ。
では地面師たちは一体、どのように嘘の取引を進めたのか。
実際に福田容疑者らから土地取引を持ち掛けられたYさんが取材に応じた。
Yさん:これはほんまに売らない物件ということですっと閉鎖されていたんです。だけど、ほんまに売るんかなって。

■民泊の一室で取引 さらに路上で土地所有者の確認手続き
Yさんは取引の中でいくつかの違和感を抱いたという。その一つが取引の場所。
福田容疑者が提案してきたのは民泊の一室だったという。
Yさん:ここに私とスポンサー、ここ(ソファー)に福田さんが。(Q契約とかそういうことする場所ではない?)ないですよね。
さらに不可解なやり取りが。粂容疑者が本当の土地所有者であることを確認する手続きで指定した場所はなんと路上。
Yさん:えらい若い代表さんですねって言ったら『甥っ子なんです』って。だからこれは『身内同士の争いなんです』って。
その後、Yさんが粂容疑者と会話を続けようとすると…
福田容疑者:もうこれで大丈夫です。いけるでしょう。
早々に粂容疑者を引き上げさせようとしたという。その後、福田容疑者と連絡がつかなくなり詐欺だと気がついた。

■ 売りに出していないはずの物件を買ったと言い張る男性が現れる
さらにnewsランナーが取材を進めると、実際の所有者から委託されて建物の管理をしている男性にたどり着いた。
去年、地面師詐欺事件の舞台になったとされる物件にある”異変”が起きたと話す。
実際の所有者から委託されて建物を管理している業者:去年の3月に住人の方から鍵が開けれないっていう連絡があって現地に行くと、見に行ったら3件とも入り口の鍵を変えられてた。
さらに物件の中からは中国語を話す男性が現れたというのだ。
実際の所有者から委託されて建物を管理している業者:中から人が出てきてその人らが鍵を変えた。『買ったから自分の建物だから鍵を変えるのは当然だ』と言ってきた。すぐに(本当の)オーナー確認して、そしたら『売ってない』って言うので。
売りに出していないはずの物件を買ったと言い張る男性。

■「14億か15憶か現金ですべて払ったと聞いている」
さらに。
実際の所有者から委託されて建物を管理している業者:14億か15憶か現金ですべて払ったと聞いてます。(当時は)地面師って言葉も知らなかったので、驚きのほうがすごくて現実的にあり得ないと思っていた。
捜査関係者によると、騙されて物件を買った企業のひとつは代表が中国籍。
もう一社も代表が外国籍だということで、2社あわせておよそ14億5000万円をほとんど現金で払ったということだ。

■不動産鑑定の専門家が「高騰を続ける大阪の土地価格」を指摘
ドラマの世界が現実のものとなった地面師詐欺事件。
その背景には高騰を続ける大阪の土地価格があると指摘するのは、不動産鑑定の専門家。
さくら不動産鑑定株式会社 飛松智志代表:出物がないんです。あの辺のエリア。出物が出れば相場はあってないようなエリア。でかい物件を取引するとなるとうわさが回る、『この物件動いているよ』ってなると、よく分からない反社なのか、グレーなのかわからない人が入り込んでくる。
そして、インバウンドの影響も…
さくら不動産鑑定株式会社 飛松智志代表:海外の人はまずミナミになる。ミナミで3物件はそんなに出ることない。中国・アジア系でキャッシュを持っている投資家などは人気エリアで出ると殺到する。

■戦後の混乱期から発生した『地面師』
「地面師」といわれる詐欺犯罪は、ドラマの世界だけではなく実際に存在していて、「不動産取引を巡る詐欺事件としては典型的な手口」だと兵庫県警で刑事部長も務めた棚瀬さんは言う。
元兵庫県警刑事部長 棚瀬誠さん:『地面師』自体は戦後の混乱期から発生した手口ですけれども、不動産の取引を巡る詐欺事件としては典型的な手口になります。
地面師を題材にしたドラマを見たという大阪大学大学院の安田教授は、「本当に起きるのは驚き」だと話す。
大阪大学大学院 安田洋祐教授:ドラマの中で、指示役のハリソン山中という人物が『ターゲットが大きければ大きいほど狙いやすい』と言っていたんです。十数億の被害が出るような事件が、本当に起きるというのはちょっと驚きですね。

■住民票不正取得を手始めに会社の登記も変更して土地所有者を装う
改めて地面師グループの手口を整理する。
まず土地・建物の本来の所有者の住民票を不正に取得。
次に取得した住民票の情報をもとに、運転免許証を偽造。
さらに本来の所有者の印鑑登録証を勝手に変更し、そこから所有者の会社の登記を変更して、今回逮捕された粂容疑者を会社の代表とした。
住民票の不正取得に始まって、印鑑登録や法人登記まで変更されるというのが怖い所だ。
元兵庫県警刑事部長 棚瀬誠さん:地面師の典型的な手口でありますけれども、冒頭の住民票を不正に入手するところが、トリガー(引き金)になっています。これは地面師だけでなく、他の詐欺の手口でも使われるわけです。『私が知らないところで、いつの間にか住民票が取得されていて、私になりすましている人がいる』ということで、それは怖いですよね。
そのような不正行為への対策はあるのか。
元兵庫県警刑事部長 棚瀬誠さん:住民票の不正取得については過去に議論がありました。今回、本人が住民票を取るのではなく、第三者が住民票を取得した。例えば訴訟の関係ですと、債権者は債務者の住民票を入手することができますが、本人はそれを知らないんです。
元兵庫県警刑事部長 棚瀬誠さん:ですので、第三者が取得したとことが本人に分かるようにする、あるいは住民票自体に第三者が取得した住民票であり本人の取得した住民票ではないというようなことが明らかになるような仕組みがあった方がいいのではないかといった議論があります。

■捜査のポイントは「被害金の行方」と「指示役の存在」
今回の地面師詐欺事件の今後の捜査について、「被害金の行方」と「指示役の存在」だと棚瀬誠さんは大きく2つのポイントをあげる。
元兵庫県警刑事部長 棚瀬誠さん:被害金、現金14億円ほどが容疑者に渡されている。この現金はどこに行ったのか。犯罪収益の剥奪はもとより大事ですけれども、現金の行方というのは、さらなる指示者がいるのではないかということにも関わる。
元兵庫県警刑事部長 棚瀬誠さん:もっと奥に現金を入手した人間がいるのだとすると、本丸はそこです。捜査経験者とすると、本丸がいるのかどうかも含めて、被害金の行方、組織の実態解明というのが捜査のポイントになると思います。
このような地面師詐欺事件というのは今後も増える可能性があると言う。
関西テレビ 神崎博報道デスク:大阪・ミナミを中心に土地バブルが起きているという話がありましたが、他にも京都など外国人観光客が集まるところで、特にまとまった土地ですと、ホテル事業などもあるので、このような事案というのは今後も続く恐れがあると思います。
14億円を超えるお金が一体どこにあるのか。捜査の進展を待ちたい。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年6月10日放送)
