仙台は100万都市でありながら自然豊かで「杜の都」と呼ばれます。その仙台都市圏が育む自然に焦点を当てたシリーズを不定期でお伝えしていきます。1回目は、仙台の山奥に源を発し、仙台湾に注ぎ込む七北田川と、その恩恵にあずかる人々の営みです。
真冬の泉ヶ岳。仙台市の北西部にそびえる、標高1175メートルの山です。獣の足跡が残る雪原は、地吹雪にさらされる日もあれば、しんしんと雪が降り積もる日もあります。
雪の下から聞こえてくるのは水の音。幾筋もの水が流れています。雪が解け、水はやがて沢となり、そして川となって、春の新緑の中を流れていきます。
七北田川の支流の一つ、長谷倉川です。川の流れに抱かれて、生き物が育まれ、新緑は、その濃さを一層増していきます。太古の昔から変わることのない、自然の営み。川の水は山を下り、里の田畑へと向かいます。
熊谷農園 熊谷貴幸さん
「稲作が始まったのが本当にかなり前で、私で11代目と話を聞いたことがあります。泉ヶ岳の麓という立地なので、まず流れてくる水の水温が冷たいというのがあって、一番水というか、本当に山から下ってきて最初に使わせていただいている水なので、すごく環境もいいのかなと。水もきれいですし、水温が冷たいというのが何より魅力的で。コメの収量があまり見込める地域ではないんですけども、その分、食味というか、品質がとても高いのかなというふうに感じていますので、とてもいい条件でやらせていただいていると思っています。私は小学生の頃に野球を始めて、その時に友達が家に泊まりに来たことがあって、そこで泳いだりとか、あと川魚を手で捕まえたりとかを毎年、夏にやっていた思い出があって、自分の家の環境で遊んでくれているのがうれしかった。そういう部分に変に自信を持ってもいましたし、いい思い出だなと今、思います。環境はなかなか変えることができない部分なので、立地的なところも含めてこの水のおかげで、いろんなお客様からおいしいと言っていただけるお米作りができているのかなと感じています」
良い水を求め、仙台の街中からこの地に移転してきた酒蔵があります。
仙台伊澤家勝山酒造 伊澤治平さん
「ご存知の通り、日本酒というのは60~70%、場合によってはそれ以上がやっぱり水でできていますので、一番の原料は水なんですよ。水の味というものが、その日本酒の美しいテクスチャ(質感)を型取っていますので、どうしても水が良くなきゃいけないということで、仙台で移転するのであれば、同じ仙台の中で最良の水が採れるのが泉ヶ岳の水系でした。基本的に軟水で、すごくきれいなやわらかい水ということが一つ。あと、お酒の発酵に、酵母の働きを促すミネラル組成が非常に良くて、仙台らしい酒造りにはもう絶好の水だと思います。地表からの水の恵みがコメに来ていて、仕込み水は地表から地下に行って、(井戸の深さは)85mぐらいなので、同じ水源の水でできたコメと同じ水源の仕込み水が出会うと、非常にいいハーモニーが奏でられるんですね。で、この『ハーモニー』『調和』とか『一致』が素晴らしいので、できたお酒というのは格段に違いますね。泉ヶ岳の恵みですよね、やっぱり」
植物が、そして生き物たちが集まる七北田川の流れ。人の営みにも、恵みをもたらしてくれています。