プレスリリース配信元:国立大学法人千葉大学
千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程1年の奥山登啓氏と同大国際高等研究基幹の佐藤大気特任助教、大学院理学研究院の高橋佑磨准教授の研究グループは、約100種類のキイロショウジョウバエ系統(注1)の成虫を対象に、個体間の行動の多様さが群れ行動に与える影響を評価しました。その結果、個体間で多様な行動パターンを示す集団では、そうでない集団に比べて、餌などを探索する行動がより大胆になることを発見しました。また、とくに個体間での行動の多様性が、群れ全体の行動を促進することを明らかにしました。これらの結果は、多様な個性によって、ハエの群れが新たな行動特性を獲得する可能性を示しており、「多様性とイノベーション」の関係の理解に貢献すると期待されます。
本研究成果は2025年6月9日(日本時間)に国際学術誌Journal of Experimental Biologyで公開されました。
■研究の背景
自然界では、さまざまなシーンで動物のダイナミックな群れ行動が観察されます。これまで群れ行動に関する多くの研究では、「同じ種の個体は同じ性質をもつ」ことを仮定してきました。一方で、ヒトに個性があるように、ハエなどの昆虫においても、一つの種のなかに行動の個性があることがわかっています(参考文献1)。しかし、こうした種内の行動的な多様性が、群れ全体の行動に与える影響はわかっていませんでした(図1)。
図1. ハエにも個性がある
■研究の成果
本研究では、多様な行動パターンを示す多数のショウジョウバエ系統を用いて、集団内の多様性の程度を人為的に操作することにより、多様性が群れ行動に与える影響とそのメカニズムを調べました。同じ系統由来のハエ6頭で構成した均質集団と、2つの異なる系統を3頭ずつ混ぜて多様性をもたせた異質集団を作成し、それぞれの集団を直径3cmの円形の空間に導入し、5分間自由に空間内を探索させました。その様子をビデオカメラで撮影し、動画解析によってハエの行動を移動速度と探索の網羅性、空間の好み、停止時間の4つの指標で評価しました。
その結果、均質集団では個体が空間の端を好んで歩く傾向が強かったのに対し、異質集団では中央付近も歩き回ることがわかりました(図2)。一般に、ひらけた空間では、天敵などに狙われやすい「空間の中央部」を歩く行動は、動物の「大胆さ」を表す主要な行動指標として注目されています(参考文献2)。これらの結果は、群れ内の多様性が、群れ内の個体の行動を「大胆にした」ことを示しています。異質集団の構成(系統の組み合わせ)によっては、多様性がない状態からの期待値と比べて大胆さが最大で約30%も向上していました。
図2. 多様性によって大胆さが向上した
ただし、大胆さがむしろ低下する組み合わせも発見されました。そこで、組み合わせと大胆さの向上の関係を調べたところ、組み合わせた系統間の活動量に差があるほど、行動が大胆になることがわかりました。個体が互いに影響を与え合って行動を変化させる現象は「社会的促進」と呼ばれます。社会的促進による大胆さの向上は、ハエが空間内を満遍なく探索し、効率的に餌などの資源を発見することにつながると期待されます。本研究は、種内の行動多様性が社会的促進を生み出すことを実証した貴重な研究例となりました。
■今後の展望
本研究では、個性の多様さが群れ行動において重要な役割を担うことを明らかにしました。今後は、生物の多様性が導くさまざまな影響を詳細に調べることで、動物の種内における個性の多様さの役割や個性の進化の理解、さらには、集団における多様性の効果的な活用方法を検討する予定です。
■用語解説
注1)系統:野外で採集された1個体(雌)の子孫同士で交配を繰り返して維持された交配集団のこと。各系統は1個体の雌に由来しているため、その雌の遺伝的特徴(表現型)を維持していると考えられる。同じ系統の個体どうしは遺伝的なばらつきが限りなく小さく、クローン個体とみなせる。
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の助成金の支援を受けて遂行されました。
・科学研究費助成事業「天邪鬼行動が集団に及ぼす社会的・生態学的影響とその遺伝基盤」(JP23H03840)
・科学研究費助成事業「個体の不均一性がもたらす集団行動の多機能性:集団行動の高次遺伝基盤と制御」(22H05646)
■論文情報
タイトル:Genetic heterogeneity induces non-additive behavioural changes in Drosophila
著者:Takahira Okuyama, Daiki X. Sato, Yuma Takahashi
雑誌名:Journal of Experimental Biology
DOI:10.1242/jeb.249449
■参考文献1
タイトル:Balanced genetic diversity improves population fitness
雑誌名:Proceedings of the royal society B
DOI:10.1098/rspb.2017.2045
■参考文献2
タイトル:Is boldness affected by group composition in young-of-the-year perch (Perca fluviatilis)?
雑誌名:Behavioral Ecology and Sociobiology
DOI:10.1007/s00265-004-0834-1
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