配達天国と呼ばれるほどフードデリバリーの利用者が増加している韓国。
一方で、ドライバーの過酷な労働環境が深刻化しています。
学校に行かず就職もしない「休息」を選択する若者たちの増加も社会問題に。
3日に投開票を迎える大統領選挙でも、有力候補たちは労働を巡る政策を掲げています。
革新系最大野党「共に民主党」・李在明(イ・ジェミョン)候補:
労働者が労働現場で、安全施設の不備で過労で命を失い、家庭がめちゃくちゃになるなんてことがあっていいのでしょうか、皆さん!
保守系与党「国民の力」・金文洙(キム・ムンス)候補:
青年の就職の門はますます狭くなっている。解決は容易なことではないが、この問題を最も重要な国政課題と考えて必ず解決する。
5月に韓国の国会前で集会を開いたのは、フードデリバリーのドライバーたち。
韓国では、生活に必要なあらゆるものの購入に配達サービスが広く利用され、2024年1年間の宅配総量は約60億個。
フードデリバリーは、国民の約半分が利用していると分析されています。
しかし、ドライバーたちは雇用主によって就業時間や場所に縛られていないことなどを理由に労働基準法上の労働者と認められておらず、最低賃金や労働時間の上限が適用されずにいます。
フードデリバリーサービスのドライバー、キム・ヒョンスさんは、8年前からこの仕事で生計を立てていますが、業界の価格競争により、以前に比べ報酬が減ってきていると話します。
キム・ヒョンスさん:
1件あたり平均4500ウォン(450円)程度です。前は6時間から8時間働いていたとすれば、今はその1.5倍ほど働かないと同じ水準の金額が出ません。
キムさんの5月の休日はたった2日。
取材陣が同行したこの日も、午前11時から翌日の午前1時までの14時間、ほとんど休みなく配達を続けました。
減った分の報酬を配達数でカバーしようと無理な働き方をする人は多く、フードデリバリーのドライバーは勤務中の事故やけがなどが最も多い業種の1つとなっています。
キム・ヒョンスさん:
会社側の都合に合わせて(報酬など)労働環境を変えることができてしまう。より安定的に勤務できるようにしてほしいし、労働災害もなくなってほしいです。
市民生活の裏に過酷な労働環境がある一方で増えているのが、学校に行かず就職もしない「休息」を選択する若者たちです。
現在、大学院に通う20代の女性も、かつて3カ月から4カ月の休息期間を経験した1人です。
「休息」を経験した女性(20代):
(休息し)私が歩んできた道やこれから進むべき道について、真剣に考えてみる時間を持ちました。
韓国の雇用情報院によると、15歳から34歳までで、2024年に休息状態だった人は59万人に上り、10年間で約20万人増加しています。
取材に応じた女性は、休息する若者が増加している背景について、「決まり切った社会の見方に対する不安がある」と話します。
「休息」を経験した女性(20代):
いい大学を出て、いい企業に就職して安定する。そんな人生を「善」とする。そんな見方が大多数です。それに合わせて行かなければならないという圧迫を当然受けました。
街の若者からも「本人が望む“理想的”な会社に行くために準備する時間が長くなっている」「学校で勉強を頑張って、大学の外でいろいろな活動や資格などの試験勉強もして、ある程度最善を尽くしても就職で“保証される”という感じがしない」などの声がありました。
実際に就職先がないわけではなく、製造業などでは就業者数の減少が課題となっていて、理想を求める若者と実際の雇用のミスマッチもまた、休息する人を増やす原因となっています。
3日に誕生する新たな大統領が山積する課題をどう解決していくのか、その手腕が問われます。