刑務所を出所した人の更生と支援をどう進めていくか。
雇用を通じて「居場所」をつくり、再犯の防止を目指す取り組みを追った。
出所者の“再出発”支える
三浦貴志さん、54歳。
札幌市の運送会社「弘和通商」で整備士として働き始めて2年が経つ。
整備士の仕事は朝早くから始まる。
長距離トラックの運行予定に合わせて念入りに点検を行う。
「ケーブル、延長コード何もなかったからこれにゲートまいて」(菅野不二也さん)
「まいてですね」(三浦さん)
「それ用意してもらえればつけるの簡単だから」(菅野さん)
もう1人の整備士が先輩の菅野不二也さん、75歳。
菅野さんはこの道50年以上のベテラン。
20歳以上、年が上の菅野さんを父のように慕う三浦さんは仕事のほとんどを菅野さんから学んだ。
「(菅野さんは)こわい方だよと聞いていた。やはり整備の中で上の年代は厳しい方が多かったので。丁寧に教えていただいたので、とても入りやすくいけた」(三浦さん)

「社会復帰」へのハードルは高い
北海道赤平市で生まれ育った三浦さん。
高校では陸上部に所属し、卒業後は札幌の自動車学校に入学した。
その後、30年ほどにわたって車の整備に携わってきた。
ただ、三浦さんにはある過去が。
「自分が追い込まれてしてしまったことなんですけど、かけ離れた世界。おそらく想像がつかないと思う。北海道じゃない場所にいるような感覚に陥ってしまう」(三浦さん)
三浦さんには刑務所での服役経験がある。
2020年、当時働いていた整備工場で点検や整備を行わずに車検を通すペーパー車検を行なった道路運送車両法違反の罪などで懲役2年6か月の実刑判決を受けた。
当時は次長という立場で会社のノルマを達成するために不正を行っていたという。
「私の立場上、車検の台数を確保したいということでどんな車でもやってしまおうという苦し紛れ。安易に考えてしまった。(いまの職場では)いま置かれている立場、責任を持ってやっていきたい」(三浦さん)
罪を犯してしまった人の「社会復帰」。
そのハードルは高い。

再犯者のうち7割が無職
2023年、出所した人は1万7000人ほどいるが、そのうち内定は1400件ほどで1割にも届いていない。
「刑務所の中でずっと求人票を見ていました。やはり見るのは整備に関する仕事。運と巡り合いがあったおかげでいまの会社に勤められていると思っている」(三浦さん)
出所から約2か月後に就職が決まった三浦さん。
きっかけは出所者の社会復帰を支える日本財団の「職親(しょくしん)プロジェクト」という取り組みだった。
取り組みの一番の狙いは「再犯の防止」。
再犯者のうち無職だった人は7割にも及ぶため、「社会からの孤立」を防ぐために登録企業が親代わりとなって支えているのだ。

受刑者と出所前から心を通わせる
「一番最初はこわくなかった?話しづらい。話しづらいって使えないじゃん」
三浦さんが働く「弘和通商」。
休憩の時は和やかなムード。
話しの中心にいる「親代わり」の1人が常務の山田慎也さんだ。
ウソをつかない、一人で決めず相談する。
山田さんは受刑者と出所前から心を通わせ、採用の面接に臨む。
現在、従業員は95人いるが、そのうちの7人が出所者だ。
採用を進める背景にはドライバーや整備士が不足する物流業界の深刻な事情もある。
「社会貢献の部分もそうだし、運送業界での人手不足も両方解消できるなって。(採用は)殺人・性犯罪・薬の3つはNGにしましょうって決めている」(弘和通商 山田慎也常務)

「会社からもっと信用され、必要とされるように」
仲條博志(なかじょう・ひろし)さんも2023年、このプロジェクトで採用した1人だ。
いまは食品などの在庫管理を担っている。
仲條さんは2018年、偽の手形を金融機関に提出し金をだまし取った金融商品取引法違反の罪で懲役5年の実刑判決を受けた。
「会社からもっと信用されて、会社からもっと必要とされる人にならなければいけない」 (仲條さん)
「普通に話して、しかも気さくなので、グイグイくるので全然、自然でいいんだって。(元受刑者だと)忘れてきてしまっているっていう感じ」(従業員)
「過ちは誰にでもあるので過去に何かしたからといって差別するとかない。上司にあたる方なので尊敬しています」(従業員)
「ははは、あーそうなんだ」(仲條さん)

過去と向き合い、ともに歩む
一方、整備士の三浦さんは丁寧な仕事ぶりと人柄が評価され、去年、工場長に任命された。
これまで工場長を務めていた菅野さんが指名したのだ。
「これはみっけもんだと思って。会社は手放さないようにしてほしい」(菅野さん)
「みんな人柄が良いので居心地が良い。それに甘えることなく厳しく仕事をしていきたい。会社に貢献して頑張っていきたい」(三浦さん)
「頑張って」(菅野さん)
「ありがとうございます」(三浦さん)
過去と向き合い、社会から孤立させずにともに歩む。
再出発を支える支援がきょうも続いている。
