いわき信用組合(福島県いわき市)が、長い間隠し続けてきた多額の「不適切な融資」について5月30日に第三者委員会が報告書を公開した。これを受けいわき信用組合が会見を開き、一連の不祥事についての謝罪と今後の経営態勢などについて説明をした。
これまでを整理
2024年11月に、いわき信用組合は大口融資先だった企業の資金繰りを支援するため、「迂回融資」をしていたことを公表。さらにその後、東北財務局によって「無断借名融資」も明らかになった。
その手口は、事業実態のない企業いわゆる「ペーパーカンパニー」や、預金者の承諾を得ず勝手に開設した複数の口座を通じ、資金を流出させていたとみられている。
これらの不適切な融資に携わっていたのが、引責辞任をした江尻次郎前理事会長など旧経営陣。秘密裏に融資を管理する役員を歴代引き継ぐなどして、長期間隠ぺいを続けていた。
さらに、元職員による多額の横領事件も発生していたが、旧経営陣は懲戒処分など必要な措置を取らず、さらなる横領を引き起こしていた。その損失は不適切な融資などで補填されていた。

「前会長が絶対的な存在となっていた。ガバナンスが機能していない。組織全体に遵法精神が根付いていない」と、東北財務局は経営管理態勢などに“重大な問題点”があると指摘。いわき信用組合に業務改善命令を出し、2025年6月30日までに、業務改善計画を提出することなどを求めている。
第三者委員会の調査報告
一連の不祥事を調べてきた第三者委員会がまとめた調査報告書は200ページを超えた。
2024年11月の会見では、不正融資の額は10億円を超えるとされていたが、第三者委員会が認定したのはそれを大きく超える額だった。
第三者委員会が認定した不正融資の実行件数は、1293件・合わせて247億7000万円あまりに上った。

その内訳が、
●いわゆるペーパーカンパニーを介した“迂回融資”が54件・18億円
●預金者の名義を勝手に使い開設した口座を通じた“無断借名融資”が1239件・229億円
資金繰りを支援する必要があった大口の融資先には、限度額の52億円がすでに融資されていて、不正な方法が取られたとみられている。
その期間は、事業実態のないペーパーカンパニーを介した迂回融資の方法は遅くとも2004年3月に開始されていたことが確認された。
また預金者の名義を勝手に使い開設した口座を通じた“無断借名融資”は、遅くとも2007年3月から始まり2024年10月まで行われ17年に及んでいた。

勝手に名義が使われていたのは、役職員の家族や親族などが多数だが、一般の顧客の名義も含まれていた。
不正に捻出された資金の多くは返済に使われたが、なかには元職員による横領を補填するために2億円が使われるなどしたほか、使途不明金が8億円~10億円に上るとされた。

第三者委員会は「役員による横領の可能性も排除することはできない」と指摘していて、いわき信用組合に対してさらなる調査・説明を求めている。
隠匿や虚偽説明があった
いわき信用組合は、震災後に国から200億円の資金支援を受けている。
被災企業を支援するために使われるはずの資金だが、“無断借名融資”の返済に充てられていた可能性がある。第三者委員会の調査で判明しただけでも、約10億円に上るという。

会見で第三者委員会は「結論としては協力的だったとは、とてもいいがたい状況。積極的に事案を解明するために、持っているであろう資料を出していただけたかというとそうでもないし、認識しているであろう事実をお話しいただけたかというとそうでもない。それどころか、あるべきものを隠滅したという話も出てきたり、そういう事象が続いたという状況だった」と明かし「多数の重要な時事に関して隠匿や虚偽説明があった」とも指摘している。
新たな経営体制へ
5月30日午後6時からはいわき信用組合の会見が行われた。会見の冒頭、現経営陣が謝罪した上で、新たな経営体制について示した。

一連の不祥事の経営責任を取り、本多理事長をはじめとする7人の役員が辞任することを明らかにし、全国信用協同組合連合会から新たな役員を招き経営管理体制を刷新していくとしている。
専門家「組織全体が腐っている」
一連の問題の悪質性について、銀行業界に詳しい東洋大学の野崎浩成教授は「今まで見たことがないぐらいのレベルの不祥事」「個人だけの問題ではなくて組織全体が非常に腐っている」と指摘する。
そのうえで、いわき信用組合が不正に手を染めた背景に2つのポイントを挙げた。
1.金融機関の自主性を尊重するために検査マニュアルが廃止されたこと
2.信用組合という組織の特性も影響
野崎教授は「銀行というのは、必ず当局だけではなくて株主のチェックを受ける。ところが共同組織というのは、あくまでも互助的な組織であるので内々で人事が進められてしまう。そうするとガバナンスが非常に弱くならざるを得ない」と説明する。

また「銀行ってなんか信用できないよねと。自分の口座が勝手に使われて、何か悪いことをされると自分が悪いことをしたみたいになってしまうということで、不信感が増幅されやすい。そうすると他の金融機関も同じような目で見られる可能性がありる」と指摘し、この不正が一金融機関の問題には留まらなくなることを懸念している。
大臣「極めて遺憾」 厳しく検証する考え
前代未聞とも言える不祥事が明らかになったいわき信用組合。
加藤財務・金融担当大臣は「業務改善命令に基づき、いわき信用組合の業務改善を強く指導すると共に、改善に向けた取り組みを厳しく確認・検証していきたい。東日本大震災の被災地域の復興に貢献するために、国からの資本参加を受けながら、それを奇貨として架空融資の償却を行っていたことは極めて遺憾であり、金融庁としても非常に重く受け止めている」と話し、厳しく検証していく考えを強調した。

5月29日に業務改善命令を出した東北財務局は、第三者委員会の調査報告書を踏まえさらなる事実関係の精査や真相究明の徹底を求めている。
いわき信用組合には、今後も説明責任を果たすことが求められている。
(福島テレビ)