「けん銃だ」「やられた」
発砲は1発目から3発目までは連続しており、間隔は1~2秒、4発目は若干、間をおいた感じで、間隔は5秒くらい以内ではなかったかと思います。
今から考えると、1発目から3発目が長官に当たり、4発目ははずれたのではないかという気がします。

1発目の後、互いに向き合うかたちになり、長官に『けん銃だ』と言われ、その後崩れるようにして倒れられ2発目と3発目の間に『やられた』と言う様なことを仰っていました。3発目は、長官の肩口とズボンの裾を持ち引っ張っている時に当たっており、自分自身も拳銃上級ですので、犯人は相当の腕前であるという印象を持ちました。
4発目は長官を引きずっている時でしたが、はずれた弾は砂煙を上げ、破片がEポートの植え込みの角に当たったのではないかと思います。

その後、長官が退院してから1カ月程経った頃でしたが、長官の執務室で長官と会話している中で事件現場の話になり、その時『私はあの時、1発目は当たっていたよ。何か熱い矢のような物が身体を通り抜けた様に感じた』と言われ、その時初めて1発目が当たっていたことを知りました。
長官公用車の運転手の証言
3月22日以降のある日、膝まで白いコートを着た若い男が敷地内をうろうろしているのを車の中から見ました。身長は170センチ程度で、スマートな体型であり、髪形は今風のオールバックでした。この男が、秘書官が出てくるとFポートの中に隠れ、いなくなるといった不審な動きをしていたんです。

事件当日の朝、不審車両についての記憶はありません。待機している間、天気の良い日には隅田川の土手に上って煙草を吸ったりしていました。当日は小雨が降っていたので外に出てはいません。
長官車が2日前からプレジデントにかわり、後部座席にカーテンがつき更に雨のため曇っていたこともあり、よく見えなかったんです。
時間は定かではありませんが、8時30分より前に、タクシーに乗って出勤する人を見ました。毎日同時刻ごろにタクシーで出勤する40代半ばの感じの悪い男で、Eポートの住民ではなく、BあるいはCポート方面の住民と思われました。

秘書官が長官をお迎えする際にはスタンバイするために、運転席から正面方向に見守っているのが通例であり、この日も後方を見ていました。すると、いつもとは違う通用口から長官と秘書官が出て来たので『変だな』と思いつつも、ギアをPからDレンジに入れ変え、サイドブレーキをはずしブレーキペダルを踏みました。
銃撃直後に目撃された2人の男
突然、パーン、パーン、パーンとバックファイアのような音がしたんです。すぐギアをPに戻し、振り向くと、長官と秘書官が倒れていました。
2発目の後か3発目の後かは定かではないのですが、Fポートの壁付近から長い銃身が突き出ているのを見て、ライフルではないかと思うほど長く、30センチくらいはあったと思います。色は黒でした。砂煙も見えました。4発目の直後、クラクションを鳴らすとともに、秘書官が長官を引っ張ったところから「かばん、かばん」と叫んでいたので、「長官大丈夫ですか」と声をかけました。

この前後であったと思うのですが、前方Bポートの塀の前に、男が2人立っていたような気がします。50メートルくらい離れていたのではっきりとは覚えていませんが、両名とも年寄りではなく、青壮年でした。
向かって右側の男は、赤っぽい、えんじ色か茶系統のジャンパーを着ていた気がします。左側の男の服装は地味な色であったように思いますが、よく覚えていません。なんとなく白っぽい服を着ていたような気もするが不確かです。その後、2人の男は見えなくなってしまいました。
その時点で、多分秘書官と話をした署警備課の警部補だと思いますが、現場に来たので、その警部補も2人の男を見ているかもしれません。その時、Fポート方向に警備の人が来たような気がするがよく見えませんでした。
「田舎のおっさん風の男」
事件数日前に秘書官は「田舎のおっさん風の身長160センチくらいの男」を見たと証言していた。この目撃証言が中村と一致するとの見方も出る。

一方で、長官公用車の運転手は、事件数日前に敷地内をうろうろする膝まで白いコートを着た若い男を目撃していた。髪形はオールバックで身長は170センチ程度、スマートな体型だったという。秘書官が出てくるとFポートの中に隠れ、いなくなるといった不審な動きをしていた。事件発生直後には身長170センチくらいの年寄りではない2人組の男を見たという。事件現場に中村とは一致しない若い男2人組がうごめいていたという証言もあったのである。
運転手が目撃した人物が誰だったのか未だに判明していない。
【秘録】警察庁長官銃撃事件57に続く
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】
1995年3月一連のオウム事件の渦中で起きた警察庁長官銃撃事件は、実行犯が分からないまま2010年に時効を迎えた。
警視庁はその際異例の記者会見を行い「犯行はオウム真理教の信者による組織的なテロリズムである」との所見を示し、これに対しオウムの後継団体は名誉毀損で訴訟を起こした。
東京地裁は警視庁の発表について「無罪推定の原則に反し、我が国の刑事司法制度の信頼を根底から揺るがす」として原告勝訴の判決を下した。
最終的に2014年最高裁で東京都から団体への100万円の支払いを命じる判決が確定している。