「この事件の犯人は中村で間違いないですよ。ただ共犯がもう1人いると言っています。『下見から何から2人でやった。でもどちらが撃ったかなんて今更知りたくないでしょう』と中村は冗談を言ったりしています」
中村は、ほぼ完落ちしているんだろうと思った。
この捜査員が初めて訪れた自分にそう言うくらいだから各社周知の話なのだろう。これが中村捜査班の捜査員=刑事への最初の夜まわりだった。
中村泰の半生
中村が捜査線上に浮上したのは別の事件での捜査がきっかけだった。
1992年2月、東京・東村山市の交番で勤務中の警察官が何者かに刺殺され拳銃が奪われた事件である。この事件を担当していた警視庁捜査一課の原雄一係長(警部)が、2002年12月ごろ以下の犯人像に合致する人物がいないかを探していたことから始まった。

・警察官を殺害あるいは重傷を負わせた前歴者
・拳銃所持の前歴者
・拳銃を使って事件をおこしている前歴者
・多摩地区に土地鑑のある前歴者
この条件に合致する人物として浮上したのが、2002年11月に名古屋市西区にあるUFJ銀行押切支店で拳銃を発砲して現金輸送車を襲撃した中村泰(当時72歳)だった。

中村は警備員1人に重傷を負わせ、現金5000万円を奪ったがもう1人の警備員に取り押さえられて逮捕された。
中村は1930年4月24日、東京・新宿で生まれた。この男がどうして警察庁長官を撃ったと言い出すに至ったのか。半世紀以上を遡らなければいけなかった。