中国の世界最大級の卸売市場では、関税の影響でアメリカ向け輸出が減る中、輸出先の多角化を進めていた。アメリカ人バイヤーの減少が目立ち、東南アジアなど新興国への輸出が拡大している。専門家は「インドやラテンアメリカなどとの連携強化が今後の成長戦略になる」と分析する。
アメリカ依存に揺れる卸売市場…中国業者が輸出先再編
米中の関税措置の見直しを、中国の輸出業者たちはどう見ているのか。世界のスーパーマーケットと呼ばれる国際卸売市場を取材した。

サンタの置物や、ツリーを飾るオーナメントなど、クリスマスを彩る商品がずらりと並んでいる。
取材班:
季節外れの商品が並んでいるように見えますが、実はこの市場、今がクリスマス商戦の真っ只中なんです。

ここは中国東部の浙江省・義烏市にある、世界最大級の国際卸売市場だ。

世界のクリスマス用品の約80%を輸出し、“世界のスーパーマーケット”とも呼ばれ、市場で働く従業員は、早朝から語学の勉強を行う。

「こんにちは!」

市場で働く人:
スペイン語を学んでいます。
市場で働く人:
英語以外の外国語を学ぶことは、とても重要。
市場が開くと、クリスマス用品が集まるフロアには、朝から、各国のバイヤーが詰めかけるが、“ある異変”が起きているという。

バイヤー:
レバノンから来ています。
バイヤー:
パレスチナから来ています。

2024年の義烏市の輸出総額は日本円で12兆円近く。その最大の輸出先はアメリカだが、取材中はアメリカ人のバイヤーの姿は見られなかった。

店のオーナー:
関税戦争が始まってから、アメリカ人の客はさらに減った。
店のオーナー:
最近ではアジアの国々、ベトナム・フィリピン・韓国などの市場も徐々に拡大している。

中国全体では4月のアメリカへの輸出は、2024年4月と比べて21%減少している。今回の米中の関税の見直しについて、店のオーナーたちは次のように話す。

店のオーナー:
関税が上がった後は注文がかなり減ったので、今後は少しずつ問い合わせや注文が戻ってくるかもしれない。
店のオーナー:
アメリカの対応次第。私たちは、まだアメリカとビジネスがしたいと思っている。
一方で、「アメリカ離れ」を指摘する声もあった。

Q.(関税戦争で)アメリカとの今後の取引について考え直すか。
店のオーナー:
間違いなくそうなると思う。さまざまな市場や顧客を開拓して、特定の国や地域に依存しないようにしている。
ハイテク輸出の減速…若年層の失業拡大
「Live News α」では、データサイエンスの専門家である西内啓さんに話を聞いた。
堤礼実キャスター:
世界最大級の卸売市場の現在の様子でしたが、西内さんはどうご覧になりましたか。

ソウジョウデータ代表取締役・西内啓さん:
すごくエネルギッシュで、世界経済が大変な時期と言われている中、中国の方々がいろんな工夫をし、各国いろんなところから関係者が集まってきて、これだけの取引がされているのは、中国のパワフルさでもあり、我々も見習いたいと思いました。
堤キャスター:
これまでのトランプ関税による、中国経済への影響というのはどうなっているんでしょうか。
ソウジョウデータ代表取締役・西内啓さん:
この数カ月のトランプ氏の対中関税を強化をする方針によって、中国経済界は明確に打撃を受けつつあります。2024年の時点で、中国の輸出総額の15%近くがアメリカ向けになっており、依然として、単一の国として中国最大の輸出先になってます。
特に半導体や電気自動車、太陽光パネルなどは戦略産業に位置づけられており、追加関税がかけられているのは、中国政府にとっても、ハイテク産業の成長を通じて内需を押し上げようとした構想に対して、冷水が浴びせられていると思います。
また、国内の雇用状況というのが深刻な兆候が見られ、例えば、中国国家統計局の発表によると、都市部の若年失業率が、2025年3月時点で16.5%を記録しました。明らかに需要が足りず、不況になっているという状況だと考えられます。
この輸出減速と不動産不況が重なる中、政府が発表する成長率と、実体経済が乖離しつつあるのではないかと言われており、民間投資と雇用の吸収力にかげりが出ている状況です。
輸出多角化でアメリカ依存からの脱却を加速
堤キャスター:
中国はこの状況を脱するために、どういった戦略を考えているのでしょうか。

ソウジョウデータ代表取締役・西内啓さん:
こうした中、中国は輸出市場の多角化を進めていると言われています。
特に東南アジアASEAN諸国については、輸出を合計すると、2024年の時点で既に、アメリカへの輸出金額は合計で上回りました。
また、「一帯一路」政策を通じて、中東やアフリカ諸国とのインフラの連携や、資源の輸出入の強化を図るという姿勢もかなり顕著に見られています。
恐らく今後は、インドやラテンアメリカといった新興国市場を成長ドライバーと捉えながら、アメリカ依存からの脱却を加速させていくのでないでしょうか。
堤キャスター:
トランプ政権の狙いを見極めるという意味でも、この90日間の動きをしっかりと見ていく必要がありそうです。
(「Live News α」5月12日放送分より)