福岡県の筑後地方などで空き巣を繰り返していた75歳の窃盗犯に判決が下された。判決を前にテレビ西日本の記者に打ち明けたのは驚くべき盗みの手口と予想外の動機だった。
“その道数十年”の空き巣常習犯
2025年5月9日、福岡地裁久留米支部で開かれた裁判。神妙な面持ちで法廷に現れたのは、2024年11月、佐賀県内の住宅に侵入して現金30万円を盗んだ罪などに問われた無職の笹野邦俊被告(75)だ。

捜査関係者によると笹野被告は空き巣の世界では、”その道数十年”の常習犯だという。今回、起訴された事件以外に十数件の窃盗に関与したと疑われている人物だった。

笹野邦俊被告とは、一体どんな人物なのか。いかなる盗みのテクニックで犯行を重ねてきたのか。テレビ西日本の記者は、判決を前にした笹野被告と接見。直接、尋ねた。

▼記者「いつから空き巣をやっていた?」
▼笹野被告「いつからって、だいぶ前よ。俺の人生の半分以上は刑務所よ、40年以上は」
▼記者「どうやって空き巣に?」
▼笹野被告「いろいろ。ちゅうか、あんまり(手口を)表に出したくないんよね。私のやり方を真似するやつが出てくるけん。私としても、大っぴらに世間に出したくないんよ」

「手口は表に出したくない」と自分よがりな主張を始めた笹野被告。しかし重ねて質問すると渋々、手口を告白し出した。それは驚くべき手口だった。
新聞の或る欄を見て留守と知って
▼記者「どうやって空き巣に入るところを決めた?」
▼笹野被告「新聞で。そこが『留守』やから」
▼記者「新聞?」
▼笹野被告「うん、そうそう」
「新聞で…」と話す笹野被告。一体、どのように新聞を悪用したのか?。
それは…、新聞の『お悔み欄』だった。

新聞の『お悔やみ欄』とは亡くなった人の名前や住所、さらに、通夜の日時などが掲載されている紙面のこと。なんと笹野被告は、この『お悔やみ欄』を見て、空き巣に入る住宅を決めていたというのだ。

しかも、この手口は第三者から伝授されたものだと語った。
▼笹野被告「数年前、熊本市の公園で、たまたま知り合った男がおって、そいつが考えた」
▼記者「その男は何者?」
▼笹野被告「泥棒やっとったやつで、そいつが盗んできたものを俺が売りよったんよ。『盗んだものを、捌いて(売って)もらえんか?』って言われて、『どういう手口で盗んだんか?』って聞いたら、『新聞のお悔やみ欄で』と」
▼記者「その手口を聞いて、どう思った?」
▼笹野被告「すごいね。アイデアとしてはいいなと思ったね」

それから、笹野被告はコンビニエンスストアの新聞で『お悔やみ欄』を確認し、亡くなった人の通夜の時間帯を目がけて、留守中の住宅への侵入を繰り返したという。
空き巣を続けた意外な理由
▼記者「この方法で、全部で何件くらいやった?」
▼笹野被告「十何件くらい」
▼記者「誰もいない家に侵入した後、どうやって現金や金目のモノを探した?」
▼笹野被告「そこらへん探したらあるやろ(笑)」

なぜ笹野被告は真面目に働かず『お悔やみ欄』空き巣に手を染め続けたのか。
▼記者「働いて稼ごうとは思わなかった?」
▼笹野被告「働いて稼ごうと思ったけど、追いつかんかったんよ」
▼記者「盗んだお金は何に使った?」
▼笹野被告「嫁さんのために使った。生活費」

実は笹野被告は、5年前に知り合い結婚した19歳年下の妻がいた。この妻のために盗みを続けていたというのだ。詳しく話を聞いてみると…。

▼笹野被告「嫁さんも事件を起こして逃げとったんよ」
▼記者「え?どんな事件?」
▼笹野被告「俺の事件とは関係ないよ。ただ、逃げるのに移動したり、生活したりするのに金が要るやろ?」
なんと、妻の逃亡のために空き巣を行っていたのだ。笹野被告によると、現在、妻は刑務所に入っているという。

▼記者「被害者に対してはいま、どんな気持ち?」
▼笹野被告「本当に申し訳ないと思っています。心から反省しています」
▼記者「75年の人生に後悔は?」
▼笹野被告「後悔って言っても後悔しようがない。でも俺は、嫁さんと5年前に知り合って、嫁さんとおれるだけで幸せ。嫁さんと知りあったことが一番幸せっちゅうか…。毎日(刑務所にいる)嫁さんに手紙出しとるよ!『愛してるよ』って」

そして司法が下した判断は、懲役3年6カ月。
杉本正則裁判官は判決の理由として「新聞のお悔み欄を見て通夜で留守にした家を見繕う手口は一定の計画性があり人倫にもとる」と非難。『妻のため』という犯行動機については「犯行をなんら正当化するものではなく、再犯の恐れも相応に高い」として笹野被告に懲役3年6ヵ月の実刑判決を言い渡した。
(テレビ西日本)