旧陸軍が開発した薬”虹波”の人体実験が、高松市のハンセン病療養所の入所者だけでなく、戦時中、細菌兵器を開発したとされる旧陸軍の731部隊によって、旧満州でも行われた記録が残されていることが分かりました。
(大島青松園入所者 松本常二さん(93))
「高熱が出て出血もした。10日間ほどベッドで意識不明で寝ていた。恐ろしかったから言いなり」
子供の頃に受けた”虹波”による人体実験。入所者がその恐怖を語ったのは、80年以上の時を経てからです。高松市沖のハンセン病療養所、大島青松園の入所者180人に対して人体実験が行われていたのは「虹波」という薬です。
「虹波」は戦時中、旧陸軍が、寒冷地での兵士の体力増進を目的に開発したとされています。熊本県のハンセン病療養所「菊池恵楓園」では、入所者少なくとも472人に対し行われた「虹波」の人体実験を裏付ける資料が3年前に確認され、検証が進められています。注射のほかに膀胱や脊髄腔内など、あらゆる方法で投与が行われていたほか、激しい副作用があっても中止されることなく、実験中に9人が死亡したことも明らかになりました。
2024年の中間報告のあと、菊池恵楓園歴史資料館の原田寿真学芸員のもとには、虹波に関わる複数の情報提供が寄せられました。
(菊池恵楓園歴史資料館 原田寿真学芸員)
「旧満州では凍傷実験として使われていたことが熊本医科大学の医師が戦後すぐに発表した論文の中から確認された。今度は731部隊に関連する業務日誌の中にも虹波が実験的に用いられた、人体試験で使われたという記載がありまして、その結果、731部隊と虹波の臨床試験が近づいてきた、恐らく731部隊で使われていたのは間違いないだろうと言われている」
731部隊は、旧満州で細菌兵器の開発を進めたとされています。
記録を検証した結果、熊本の菊池恵楓園での「人体実験」は、旧満州の後に行われ、その後、高松市の大島青松園などほかの療養所でも行われたとみられています。
(菊池恵楓園歴史資料館 原田寿真学芸員)
「ハンセン病問題については、まだ分からないところが多くあると思うし、虹波の調査の中で、そのことを思い知ることになった。いまだ明らかになっていない部分、課題として見いだしていくべき部分に向かい合っていきたい」
長く閉ざされたハンセン病療養所で何が行われたのか。入所者の高齢化に伴い証言できる人はわずかです。
国の責任で、園内に残された資料の保存を訴える声も強まっています。全国の入所者やハンセン病元患者家族も参加し、5月10日から熊本で開かれるハンセン病市民学会で、原田学芸員は、虹波の検証について話をすることにしています。
(菊池恵楓園歴史資料館 原田寿真学芸員)
「菊池恵楓園歴史資料館では資料整理、調査研究を進めてきて、その中で虹波という新しい課題、みんなで考え、検討するべき事柄も出てきた。このような事柄について 考えを深めていくことが結果として、ハンセン病問題について深く考えることにつながり、人権問題についての理解を深めていくことにもなると思う」