全国の都市と比べて「乗り方がわかりにくい」広島の公共交通。
ゴールデンウィーク期間は乗降口で戸惑う観光客の姿も多く見られる。

事業者は「周知に時間がかかっている」と説明するが、はたして周知の問題なのか?

別の読み取り機にタッチする外国人

これまで広島電鉄が中心となって展開してきた交通系ICカード「パスピー」のサービスが3月末に終了。広島県内の主な公共交通機関は「モビリーデイズ」をメインとする広電グループと、ICOCAをメインとする「それ以外」の事業者の大きく2つに分かれた。

「交通系ICカードは乗るときにタッチは必要ございません。降りるときのみ乗務員か運転士のいる扉からタッチをお願いします」

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広電の車内では“乗り方”のアナウンスが流れ、至るところに同様の張り紙が見られる。
バスや路面電車で乗車券システムが混在するようになって1カ月。ゴールデンウィーク中も、広島駅は「ICOCA」や「Suica」など全国交通系ICカードを利用する人たちにやや「戸惑い」が見られた。

路面電車の乗り口でモビリーデイズの読み取り機に、何度もICOCAをタッチする外国人観光客。当然、反応しない。結局、乗ることをあきらめて路面電車を降りてしまった。

専門家の呉工業高等専門学校・神田佑亮教授は同じエリアで別々の読み取り機が混在することが、利用者の混乱と事業者の負担を招いていると指摘する。
「1つのシステムで運用することに強くこだわる必要はないかなと思います。利用者が『こっちは使えないんだっけ?』と迷う状況をつくってはいけない。外国人が困っていると思いますし、日本人で広島以外から来た人も『あれ?』と戸惑うことがあります。実は事業者側もどういうふうに案内をしていいのか困っているなと感じました」

「周知に時間がかかっている」から?

一方、普段から利用する人は慣れた様子で乗り降りし、県外からやってきた観光客も乗務員らのアナウンスや張り紙によってなんとか“広島流の乗り方”を受け入れているようだ。

栃木県から訪れ、路面電車を利用した人は「Suicaであとからタッチしました。乗るときにタッチをしないのは、やっちゃいそうになります。紙に書いてあったのでそれを見て『あ、タッチしないんだ』みたいな」と柔軟に対応。

また、オーストラリアから来た外国人観光客は「電車に乗るのは全部とても簡単だった。でもSuicaや外国人観光客向けのジャパン・レール・パスはどう使うのかちょっとわかりにくかった」と話す。

新システム「モビリーデイズ」の読み取り機はモビリーデイズ専用で他の交通系ICカードに反応しない。ところが、システム完全移行前の読み取り機は「パスピー」だけでなくICOCAにも対応していたため、路面電車や広電バスでついICOCAをタッチしてしまう現象は1カ月たっても続いている。
利用者側が早く慣れるべきなのか…?

広島電鉄の仮井康裕社長は4月24日の会見で「周知に時間がかかっているなと認識はしています。できるだけわかりやすい形で交通系ICカードだけではなくて流通系のカードであるとかそういうものも利用できるような形をとっていきたい」と発言。広島電鉄は時期を「未定」としながらも、モビリーデイズの読み取り機で全国の交通系ICカードに対応できるよう検討している。

神田教授も「目指すべきは、モビリーデイズの端末でICOCAも読める状態。もっと先をにらんでいくとクレジットカードも読める、あるいはPayPayなど他のシステムも未来を見据えたときには必要」と強調する。

観光地・広島のイメージにも影響か

さらに乗客を迷わせているのが、広島市中心部の「バスの乗り方」だ。同じ路線をメインシステムが異なるバス会社が共同で運行している場合がある。

広島市中区の広島バスセンターを利用する人に話を聞くと、呉市から来た女性は「ICOCAを使っています。乗り方はまだわかっていないです」と言う。

混乱は広島市の中心部を通る「循環線」で起こっている。広電バスが出発した数分後、同じバス停にやってきたのはICOCAをメインとする赤い広島バス。広電グループ以外のバスはICOCAの読み取り機があるため、降りる時だけでなく「乗車時」も合わせて2回タッチが必要となる。やはりここでも外国人観光客が迷う光景が見られた。

神田教授は「共同運行をしている路線は、システムがそろっているかそろっていないかによって印象が変わってきます。そろっていないと『なんで?』って思いたくなってしまうので、特に一緒に走らせている路線はサービスを同じようにしてほしい」と話す。

モビリーデイズの利用率はバスが7割強、電車が6割強と増加傾向に。広島市内を走る広電グループ以外のバス会社3社も順次、モビリーデイズの読み取り機を導入させている。複数のシステムが混在する状況で、地元の人にとってメリットが伝わりやすく、観光客に優しい仕組みづくりが求められている。

「公共交通の事業者同士のごたごたに振り回されていると思っている人がかなりいると思う。こういう運賃を用意するので、こういうサービスを用意するのでどんどん使ってくださいという形で、前向きに連携していく動きを今後見せていかなければならない段階に入ってきた」と神田教授は警鐘を鳴らす。その上で、解決策として「駅や空港で乗り方の周知徹底」「乗り放題チケットの利用」をあげた。

すでに広島には「広島たびパス」という乗り放題チケットがあり、広島駅のバス切符売り場や広島空港、一部のホテル、平和公園のレストハウスで購入できる。広電の電車全線、広島市中心部のバス、宮島航路に乗車可能で、この乗り放題チケットを観光客に使ってもらうことも「わかりやすさ」につながりそうだ。

ただ、外国人観光客向けの「Suica」が発行されていることもあり、観光客はSuicaやICOCAの利用が多い現状にある。誰もがわかりやすい“公共交通の標準化”を、利用者のためにも乗務員のためにも早急に整備する必要に迫られている。

(テレビ新広島)

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