秋田県の漁獲量は年々減少し、2024年には 4323トンと過去10年で最も少ない水揚げ量となった。燃料費の高騰や担い手不足も重なり、漁業を取り巻く環境は厳しさを増している。そんな逆境の中、にかほ市の象潟漁港を拠点に奮闘する若手漁師がいる。動画配信や加工品の販売を通じて秋田の魚の魅力を発信中だ。
漁師から「漁チューバー」へ
漁師一家の4代目として秋田・にかほ市で生まれ育ち、現在、地元の象潟漁港を拠点に漁を行っている佐々木一成さん(36)。
関東の大学で水産学を学び、神奈川県の鮮魚店で魚の目利きや流通を経験した佐々木さんは、2013年に地元に戻り漁師となった。
定置網や素潜りで漁を行う一方、5年前からYouTubeで「漁チューバー」として活動を開始。
漁の現場や魚のさばき方、調理法を自ら撮影・編集し、一般の人が触れることの少ない漁師の世界を発信している。
「漁師をしていて、一般の人は見られない風景がたくさんある。それを共有したら面白いと思った」と語る佐々木さん。
動画は、魚を食卓に届けるまでの流れを分かりやすく伝える役割も果たしている。
独自ブランド『潮香』の挑戦
情報発信にとどまらず、佐々木さんは自ら取った魚を加工品として販売する取り組みも始めた。
2024年春、象潟漁港近くの空き家を改装し加工場を整備。秋にはブランド『潮香』を立ち上げ、アジの干物やしめサバをオンラインショップや道の駅で販売している。鮮度にこだわり、氷点下60度で急速冷凍した商品は、多い月で200件近い注文が入る人気ぶりだ。
しかし、漁獲量の減少は加工品にも影を落とす。特に秋から冬にかけて最盛期を迎えるサケの不漁が続き、主力商品として計画していた「サケとば」は販売のめどが立っていない。
海の変化と漁師の未来
2024年、漁師仲間と「サケが取れなくて厳しい」と話していたという佐々木さんだが、「2025年の方が魚が取れない状況が続いている」と語る。
近年、秋田沿岸の海水温は10月でも20度以上を記録し、冷たい水を好むサケの来遊に影響しているとみられる。数字で見ても、過去5年間は同様の傾向が続いている。
それでも佐々木さんは挑戦を止めない。
「廃業するしかない状況が続けば秋田県の水産業がなくなってしまう。食文化の一つとして水産物は重要だから、顔を上げて前を向いて自分のできることをやっていくしかない」と力強く語る。
消費者との距離を縮める
漁業の厳しさに加え、消費者の“魚離れ”も進む。佐々木さんは自治体や企業から依頼を受け、魚のさばき方教室の講師を務めるなど、消費者が魚に触れるきっかけづくりにも積極的だ。
漁師としての経験を生かし、魚の魅力を伝える活動は地域の食文化を守る一助となっている。
秋田の海は今、大きな試練に直面している。しかし、佐々木さんのように新しい挑戦を続ける漁師の存在は、未来への希望を感じさせる。漁業の現場から発信されるリアルな声と行動は、地域の水産業を支える力となり、次世代へとつながっていくだろう。
(秋田テレビ)
