「刺された日はかゆみも腫れもなかったのですが、自宅に帰って5日後に刺された箇所がポツポツと赤くじんましんのように腫れてきて、強烈なかゆみが襲ってきたのです。

とにかく、かゆくてかゆくて一睡もできない。3日もすると寝不足に堪えられなくなって寝落ちするようになったのですが、やはり熟睡は無理。寝ながら無意識に患部を掻きむしって血だらけになってすぐ目が覚める。その繰り返しでした」

寝不足から妄想が始まった

さらにかゆみと同時に足立さんを苦しませたのが、極度の寝不足とトコジラミへの恐怖心からくる視覚的妄想(まぼろし)だった。

「寝不足が長く続いたせいで、どんどん精神的にも追い詰められていき、やがては壁の小さな黒い染みや、自分の身体のホクロまでもがトコジラミに見えてきたのです。それと同時に“なぜ自分はたかが虫一匹にこんなにビクビクしているのだ”と、自己嫌悪にも苛まれるようになって…。かゆみと恐怖と自己嫌悪、その三つが頭のなかをぐるぐる駆け巡り、あのときは本当に精神が崩壊しそうでした」

かゆみと恐怖と自己嫌悪で精神が崩壊しそうに…(画像はイメージ)
かゆみと恐怖と自己嫌悪で精神が崩壊しそうに…(画像はイメージ)

足立さんは、その状態のまま1週間は耐えたものの、最終的には病院(皮膚科)に行くことに。処方薬である程度かゆみは収まったが、トコジラミに対する恐怖はその後もしばらく続いた。

「刺された宿から自宅にメスを10匹持ち帰ってきたとしたら1カ月で1500匹に増えてしまう計算になる。そんなことを考えて不安や恐怖がしばらく消えませんでした。トコジラミがいかに怖い害虫なのかが分かったという点では貴重な体験でしたが、二度とあんな体験はしたくありませんね」

結局のところ、トコジラミに刺されたらどうするかよりも、刺されないためにはどうするかを考え、行動することが被害から身を守るには大切のようだ。

(旅行先からトコジラミを持ち帰らないようにする対策はこちらの記事へ)
(万が一、家にトコジラミを持ち帰ってしまった場合の駆除いついてはこちらの記事へ)

足立雅也(あだち・まさや)
害虫駆除や鳥獣対策を手掛ける「808シティ」代表取締役社長。大手害虫駆除専門チェーン店勤務中に全国コンクールで優勝。その後、業務用殺虫剤、噴霧器を販売する商社に転職。蚊やマダニに対する殺虫剤効力評価試験に協力する。宿泊関連業界、殺虫剤メーカーと協力し、トコジラミ駆除方法を研究し、講演や執筆にて全国に広める。独立後、自ら現場作業をする傍ら、数社の技術指導を行う。

取材・文=中村宏覚

プライムオンライン特集班
プライムオンライン特集班

FNNプライムオンラインのオリジナル特集班が、30~40代の仕事や子育てに忙しい女性に向け、毎月身近なテーマについて役立つ情報を取材しています。