トランプ米大統領が4月20日に「戒厳令」を発令して、全権を掌握するという噂が米国で広がっている。

「反乱法」発動し「戒厳令」を発令?

はじめはX(旧ツィッター)やTikTokなどのSNSでの話だったが、ここへ来てマスコミにも取り上げられるようになり、11日には米国唯一の全国紙『USAトゥデー』の電子版に次のような見出しの記事が掲載された。

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「トランプは反乱法を発動し、戒厳令を宣言するのか?その噂を検証する」

確かに噂にすぎないのだが、全く根拠がないわけではない。それをUSAトゥデーの記事はこう解説する。

「噂の発端は、トランプが1月20日の大統領就任直後に発令した『南部国境における国家非常事態宣言』にある。この大統領令では、国防長官と国土安全保障長官に対し、90日以内に国境の状況を報告し、必要であれば1807年の反乱法の発動を含む追加措置を提言するよう命じていた。この報告期限が4月20日であることから、憶測が広がっている」

1807年に制定された反乱法は、暴動や無秩序が発生し、州や連邦の法律が正常に執行できない場合、大統領が軍や民兵を動員して国内の治安回復に当たる権限を認めるものだが、適用例は極めてまれだ。

戒厳令はさらに強大な権限を与え、軍が文民政府に代わって法律の制定・執行を行うことを認める。現行法では大統領に明確な発令権はないとの見解もあるが、米司法省は「大統領または州知事の宣言により実施可能」としている。

そこでトランプ大統領は反乱法を発動し、それを補うという理屈で戒厳令を発令するのではないかという噂になっているのだ。

トランプ反対派は「弾劾」目指す動き

この噂をめぐって、事実確認サイト「Snopes」や政府関係機関は、現時点で正式な発表はないとしているが、トランプ反対派はこの噂を根拠に、大統領の弾劾を目指す動きを始めている。

リズ・チェイニー氏とアダム・キンジンガー氏(写真:ゲッティ)
リズ・チェイニー氏とアダム・キンジンガー氏(写真:ゲッティ)

共和党内の反トランプ派筆頭ともいえるリズ・チェイニー元共和党会議議長が、やはり反トランプ派の元下院議員でCNNのコメンテーターのアダム・キンジンガー氏と組んで、次のようなフェイスブックで弾劾をあおっている。

「2025年4月20日を待たずとも、トランプは南部国境が侵略されているという虚偽/捏造(ねつぞう)された口実のもとで、1807年制定の反乱法(Insurrection Act)を発動しようと準備しています。これはアメリカにおける戒厳令の前段階となるものです」

フェイスブックより
フェイスブックより

「これを阻止する唯一の方法は、軍の将官や司令官たちが国防長官ヘグセスに同意せず命令を実行しないと、トランプに思わせることです。将官や司令官たちは、4月20日が近づくにつれてメディアや世論の圧力に影響されます!私たちや議会が騒ぎを大きくすればするほど、メディアが注目し、これを中止させられる可能性が高まります!
毎日議会に電話してください。私たちは何が起ころうとしているかを知っており、国民は従わない」と伝えてください!手遅れになる前に、今すぐ弾劾手続きを開始するよう要求してください!!
また、FacebookやRedditで『50501』をフォローし、4月20日に向けたこのファシスト的トランプ政権に対する抗議行動の最新情報を入手してください!」

第1次トランプ政権のイースター(2017年)
第1次トランプ政権のイースター(2017年)

ちなみに2025年の4月20日は、復活祭(イースター・サンデー)にあたる。キリスト教徒の社会では、この日は救世主の復活を祝い、世の安寧を祈る日のはずなのだが。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。