プロボクシングの世界で鮮烈なデビューを飾った超大型ルーキー・坪井智也。日本人で初めて世界選手権を制したアマチュアボクシング界の元王者だ。史上最速で世界王者を目指す挑戦に密着した。
アマチュア世界王者が選んだプロの道
2025年1月、報道陣から熱い視線が注がれるその先に彼はいた。
男の名は坪井智也(29)。
アマチュアボクシング界最高峰の世界選手権で日本人初の金メダルを獲得したキャリアを引っ提げ、プロ挑戦を表明。

「最短で世界王者になれるように、そして、プロの世界王者がまだ出ていない静岡から僕がその第1号になって地元を盛り上げられたらと思っています」と力強く決意を述べた。
アマ世界王者という実績があるため、飛び級で最上位のA級ライセンスに挑戦。
実技試験では世界ランカーを相手に的確なパンチを繰り出すなど実力をいかんなく発揮し、ロンドン五輪・金メダリストの村田諒太さん以来、史上2人目の合格者となった。

駆け付けた報道陣の多さに驚きつつも「これからより注目される立場だと思うので、頑張らないといけない」と気を引き締めた。
世界選手権を制するも五輪予選では無念の…
静岡県浜松市の生まれで幼い頃は空手に打ち込んだ坪井。
だが、11歳の時に出会ったボクシングに夢中になると、高校時代は全国2位に。
その後、名門・日本大学では4年間公式戦負け知らずの48連勝の偉業を成し遂げた。

アマチュアボクシング界の2大タイトルのうちの1つ、世界選手権を日本人として初めて制すると界隈では一躍時の人に。
しかし、「ボクシングを始めた時の目標が世界選手権とオリンピックの両方で金メダルだったので、しっかり叶えて区切りをつけたい」と意気込んでいたパリ五輪は体調不良により予選を欠場。
願いは叶わなかった。

この時すでに28歳。
「ここが潮時」と彼が下した決断はアマチュアボクシングからの引退だった。
しかし、ボクシングを諦めたのではなく、選んだ道はなんとプロ転向。

坪井は「本当に僕、ボクシングしかやっていないので、今さら普通に働くことは絶対できない。ここでボクシングを突き詰めるしかない」と話した。
ただ、簡単な挑戦ではない。
これまでに比べグローブが小さくなり、ラウンド数も増えるプロの世界。
対応が心配されたが、世界王者を相手にしたスパーリングでペースを握るその姿から、鮮烈デビューを予感させた。
14勝14KOの相手にデビュー戦を飾る
デビュー戦の相手は14勝14KOの実績を持つタイ人選手。

立ち上がり、上下のコンビネーションでリズムを作ると、第2ラウンドにはさらに息もつかせぬ連打で見事2ラウンドTKO勝利を収めた。
圧巻のデビュー戦について、坪井は「戦略重視で考えて、倒し切るということは考えてなかったが、倒し切ることもできなければプロボクサーではないと思うこともあるので、倒し切ることができてよかった」と振り返る。
“男の道”に則って世界王者へ
鮮烈デビューから1週間。
坪井のもとを訪れると妻・まりなさんと束の間の休息を楽しむ姿があった。
リラックスした雰囲気の中、改めてプロ転向を果たした今の思いを訪ねると、「僕自身の“男の道”というのがあるので、それに則って頑張って生きる。“坪井はボクシングだけじゃなくて生き方もかっこいいな”って思われる存在になりたい。世界王者にはもちろんなります」と力強く宣言。

静岡県出身選手として初の、そして日本人最速の世界王者に向け、まずは一歩を踏み出した坪井。
これまでの栄光と挫折のすべてを糧に“男の道”を駆け上がっていく。
(テレビ静岡)