新生活スタートの月、4月。新しい環境への期待や不安でなかなか落ち着かない…という方も多いかと思うが、みんな最初は「1年生」。
今回は、日本気象協会に所属する300人以上の気象予報士に『新人・新生活あるある』を募集したところ、「謎の業界用語」「独特すぎるルール」「新天地でついやってしまうこと」など、気象業界ならではのエピソードが続々と集まった。新生活の活力の一つになればと、ご紹介したい。
よく分からない“業界用語”
『新人気象予報士あるある』で多かったのが、「専門用語が難しすぎる」。気象の現場では、予報士試験に出てこない、教科書に載っていない専門用語や略語が飛び交っている。
中部支社のベテラン予報士が入社直後に戸惑ったのは、寒冷前線を「寒フレ」、温暖前線を「温フレ」ということだ。
「フレ」がよく分からなかったが、「不連続線」のことだった。前線を境に暖気と寒気、2つの空気のかたまりが接しているので、空気の性質が不連続になっていることからきている。

他にも、日本周辺だけでなく、広くアジア太平洋域の実況が分かる天気図のことを「アスアス」というが、これを最初は「明日、明日」と聞き間違えた。
「アスアス」は英語で「ASAS」と表記されるもので、「Analysis Surface(地上解析)Asia(アジア)」の略だった。
細かい決めごとも多い
北陸支店の中堅予報士が新人の時に驚いたのが、似たような内容でも低気圧と高気圧で表現を使い分けることだ。
例えば、低気圧も高気圧も上空の風に流されて動くが、低気圧は「進む」、高気圧は「移動する」という。
低気圧は中心がはっきりしているため「進む」と明確に表現できるが、高気圧は中心が分かりにくいため、全体が「移動する」と表現している。
また同じ理由で、勢力が増すときに低気圧は「発達する」、高気圧は「勢力を強める」と表現する。
また、前線は「北上」したり「南下」したりするが、南下はよく「南へ下がる」と言い換える。耳だけで聞いていると、「南下する」が「軟化する」と間違えやすいためだ。
大切な「アメダス」で大変な思いも…
全国に約1300カ所あり、気温や風・降水量などを計測している「アメダス」は、その地域の気象を代表する大切な地点だ。

その名前は何度も原稿に登場するが、各地の空港にある「アメダス」が、空港名とまったく違う名前であることに最初とまどった、という声も多かった。
例えば、函館空港にあるアメダスは「高松(たかまつ)」。函館なのに高松(香川県?)…と一瞬混乱してしまう。ちなみに、香川県の高松空港にあるアメダスは「香南(こうなん)」という。

また、昔とは漢字が変わった地点にも要注意だ。九州支社の新人予報士が入社して初めて知ったのが、福岡県にある「太宰府(だざいふ)」について。こちらは、2024年に猛暑日合計62日、連続では40日と、ともに国内の歴代最多記録を更新しニュースにも多く登場した。
「だざいふ」で漢字変換すると、「太宰府」と「大宰府」という2つの候補が出てくる。これは現在の地名が「太宰府」であるのに対し、菅原道真が左遷されてきた古代の役所の名称は「大宰府」だったとされているためだ。
“新天地”でまずやることは…
4月は新社会人がスタートを切る時期でもあるが、新たな土地に移り、新生活を始めたという方も多いだろう。『新天地に行った気象予報士あるある』もご紹介する。
転勤経験が豊富な本社のベテラン予報士は、新天地が決まるとまずやるのは「住むことを検討している地域の風向きを調べる」。実際住んだあと、換気をするときに役立つからだそうだ。
本社の中堅予報士が新天地に行ったらやるのは、「テレビ各局の天気予報コーナーをひたすら見る」。同僚や“ライバル”たちがどんな解説をしているのか研究するためだ。
同じく本社のベテラン予報士は、新しい勤務地に行くと必ず「図書館で地元関係の本を借りまくる」。地元の風土、おいしい食べものなどをしっかりと把握し、季節ネタの解説に生かしてきたそうだ。
実際に見て、納得して、発信!
そして、新人・新生活に限らず、新天地で気象予報士がやることで最も多かったのが「アメダス巡り」。
アメダスは、場所が違っても同じ環境でデータが観測されるよう、厳しく条件が設定されている。
だが、設置場所にはそれぞれの特性があり、長く気象予報に携わっていると、たまにアメダスごとに“クセ”がないか?と気になることがある。
予報士は新天地にいくと、まず地元でお世話になるアメダスを見に行って、どんな状況で機器が置かれているかを確認する傾向が強い。

その結果、全国の予報士から、以下のような”体験談”が寄せられた。
「あるアメダスを見に行ったら、設置場所の北側に建物があった。冬に北風が強い時、降雪量に影響がないか気になった」(本社・ベテラン予報士)
「海沿いにあるアメダスなのにあまり海風が観測されないのが不思議だったけど、見に行ったら近くに小さな山があったから納得した」(中部支社・ベテラン予報士)
気になったものは、実際に見て納得して、天気予報をお伝えするときに生かすことは、仕事をする上で大変役に立ってきたという。
新たなスタートを切られたみなさんも、ぜひご自身の興味・関心などを大切に、充実した新生活を送ってほしい。
(日本気象協会 気象予報士 福冨里香)