トランプ米大統領の関税攻勢には、ボクシングの「rope-a-dope(ロープ・ア・ドープ)」戦術が効果的な対応策なのかもしれない。

日本時間3日に発表された米国の「相互関税」の中で、日本は24%と、主要工業国の中では中国の34%や韓国の25%に次ぐ高関税を課せられることになった。これに対して米国からの輸入製品に報復関税を課したり、日本が手持ちの米国債を売却して米国に経済的圧力を加えるという対抗策も考えられるが、安全保障で「おんぶに抱っこ」のように頼っている日本としては、米国と経済面で正面衝突することはできないだろう。
しょせんは「除外をお願い」するしか道は残されていないように思えるが、「溺れる犬は石もて打て」のように、弱みを見せたらとことん攻め込むトランプ大統領の交渉術の前には逆効果だろう。
“トランプ政権は無能ぶりを発揮して自壊”
こうした折もおり、米国では先の大統領選で敗北した民主党が、党勢挽回のきっかけも掴めず混迷している状況を打破するために、思いもよらない戦術が推奨されて注目を集めている。
これを言い出したのは、民主党の戦術家のジェームス・カービル氏で、1992年の大統領選挙でビル・クリントン氏の選挙参謀としてブッシュ(父)大統領の再選を阻止する大逆転劇を演じたことで知られるが、2025年2月25日のニューヨーク・タイムズ電子版に「民主党、今や大胆な政治戦略をとる時だ」という標題の論評記事を投稿していた。
記事は、共和党政権は選挙には強いものの、政権樹立後は無能ぶりを発揮して自壊するとして、トランプ政権についても次のように予測する。

「第2期の政権において、トランプ大統領は公約に掲げた問題、つまり公共の安全、移民と国境、そして特に経済問題を優先する代わりに、連邦政府を解体することに執着しています。そしてそのために、現代史上最も無能な内閣に信頼を置いています。
例えば、連邦の予防接種活動を標的とし、60歳でセントラルパークに熊の死体を捨てるといういたずらを楽しんだ保健福祉長官、虐待的とされるヨガ中心のカルトに献身したとされる国家情報長官、WWE (世界プロレス団体)の大物が教育省長官に、元ケーブルニュースのコメンテーターが国防長官になっています。その結果、無秩序という明確な事態を招くことになるでしょう」
そしてトランプ政権への対応を次のように勧める。

「それほど時間はかからないでしょう。この政権への支持は底をつくでしょう。実際、もうすでにそれは始まっています。就任から1カ月ちょっとで、大統領の支持率はすでに2つの新しい世論調査で低下しています。国民は教育省を破壊するために投票したのではなく、卵や牛乳の価格を下げるために投票したのです。
民主党よ、共和党の自らの渦に飲み込まれるのを待ちましょう。この調子では、トランプ氏の蜜月期間は最良の場合でメモリアルデー(5月26日)までに終わるでしょうが、もっと早ければ次の30日間以内に終わるかもしれません」
そしてカービル氏は記事の最後でボクシングの戦術を引用する。

「半世紀前、モハメド・アリは最強のヘビー級ボクサーとして自らの名を刻みましたが、それは栄光を求めて打撃を繰り出すことによってではなく、戦略的後退の技術を極めたことによってでした。
ジョージ・フォアマンと対戦した際、彼は37回のノックアウトと40回の勝利を収めていたフォアマンに対して、有名な「rope-a-dope」戦術(消耗作戦)を用いました。リングのロープに身を寄せ、左右にパンチをかわし、小さな打撃を吸収し続け、フォアマンのエネルギーが尽きるのを待ちました。そして8回戦で決定的なノックアウトを繰り出したのです。
今は第1ラウンドです、民主党よ、rope-a-dope戦法を使いましょう」
つまり、共和党政権の常でトランプ政権もまもなく自壊するので、今はジタバタせずに好きにさせておけば、遠からずトランプ大統領は政治のマットに崩れるというのだが、その「遠からず」は予想外に早いのかもしれない。
“トランプ人気”に陰り「政権は崩壊し始めている」
「トランプ政権は私が予想したよりも早くすでに崩壊し始めている:ジェームス・カービル」
(英インディペンデント紙電子版1日)
カービル氏は、3月29日のCNNのインタビュー番組に出演して、トランプ政権の高官が軍事機密情報を市販のソフトのグループチャットで交換したり、下院の共和党を補充するために下院議員の国連大使への任命を取り消すなど政権の「馬鹿さ加減」や「道化ぶり」が露呈されて、すでに崩壊が始まっていると断じた。

事実、1日に行われたウィスコンシン州の最高裁判事の選挙では、イーロン・マスク氏の巨万の資金投入にも関わらず、トランプ大統領が推薦した候補者がリベラルな女性判事に敗れた。この選挙は、トランプ政権樹立後初めての全州的選挙として注目されていたので、トランプ人気に陰りが生じているという分析の根拠にもなっている。

「MAGA(トランプのキャッチフレーズ『米国を再び偉大に』)への逆転劇が始まった」
保守的な論調で知られるウォールストリート・ジャーナル紙電子版も、ウィスコンシン州の選挙結果を受けてこのような記事を掲載した。
米本国では「rope-a-dope」作戦が効果を上げているようにも見える。トランプ関税にうろたえているようにも見える日本も、モハメド・アリに倣っても良いのではなかろうか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】