石川県輪島市の海沿いに建っていた旅館「城兼旅館」。能登半島地震で倒壊し、跡地には国道249号のう回路が走っている。そこで旅館の再建を目指す男性に出会った。事業再建に立ちはだかる壁とは何か。
旅館の敷地内を国道のう回路が走る
「50年おるんやからね、半世紀おるんやから、やっぱり中々離れろって言われても離れられないですよね。貧乏でも不自由でも育ったところがいいよね」輪島市大野町で旅館を営んでいた板谷秀次さん(58)。

城兼旅館と名付けられたその宿は、客室から見えるオーシャンビューが自慢だった。しかし2024年の能登半島地震で大規模な地すべりが発生。旅館は全壊し、旅館の前を走る国道も土砂に押し流された。

地震から1年3カ月が経っても国道は復旧中。う回路が走っているのは板谷さんの旅館があった敷地内だ。「あそこにウッドデッキがあってバーベキューできるスペースがあって、花火も見えて、漁火ももちろん見えます」

旅館の再建について板谷さんは「出来ればここでやりたい。でもこれをいつよけてくれるのか全く分からない。うちらの土地の上を通している道路も。山もどうしてくれるかも分からない」と話す。道が今後どうなるのか、山の地すべり対策はされるのか。国からは説明がない。

「縦割り行政やから、山は農林水産省。国交省は知りません。じゃあどうすればいいの?」何度も問い合わせたが、進展はなかった。行政の復旧工事が進まないために再建に取りかかれないケースは、板谷さんの他にも数多くあるとみられている。「先が見えない。半年経てば何かなるかと思っていたけど」
建設業者不足と高騰する建築費
板谷さんのなりわい再建をサポートしている県の経営支援課、枝久保貴継さん。再建を阻む壁は国の方針が決まらないこと以外にもあるという。それは奥能登全体が抱える課題だ。「修理とか建て替えの現場の様子を見てくれる業者の方、工務店の方が中々捕まらない、設計士さんが捕まらないとか、あとは最近やっと見積もりが出てきても思ったより高かったとか、そこでちょっとまた足踏みとか、そういうケースが多いんじゃないかと思います」

まずぶつかる壁は、業者の人手不足で現地調査などができないこと。ようやく見積もりまで行っても次は建築費の高騰という壁が待っている。業者の移動費や宿泊費がかさむ奥能登では、地震以降、建設にかかる坪単価が20万円から50万円ほど高くなっているという。この半年間で県の能登事業者支援センターが受けた相談は1400件以上。一方「なりわい再建支援補助金」の給付は能登6つの市と町で合わせて318件と、本格復旧まで進めた事業者の数は限られている。(2025年2月末時点)
「眠れない」 板谷さんの葛藤
この日、板谷さんの旅館があった場所に枝久保さんが建築士を連れてきた。今後に向けて専門家からアドバイスがもらえるのではないかと考えたからだ。建築士は「相当なお金がかかる。整地するだけでも予算近くいってしまう」と指摘した。敷地内に大きな段差ができていることが問題だという。地すべり対策についても国の対応によっては自力で擁壁を設置しなければならず、費用がさらにかさむことが分かった。

結局は「どこまで行っても国の遅い対応のせいで方向性が決められない。これさえ決まっていればいくらでも話進められるんですけど、これ決まらない限り、ほんと苦しいなって正直思いましたね」と建築士は語った。先が見えないまま、ただ時だけが過ぎていく。

「こんなところで再建したってできるかできんか分からんのに、1年以上経ってしまうと…と思いながらボランティアの方でも応援してくれたりしますから、そう思うともうちょっと頑張ってみようかなとか。毎日色んなこと葛藤しています。眠れないです、本当に」3月下旬、ようやく国交省と農水省から板谷さんのもとに連絡があり、4月中にう回路の土地を返却できること、1~2年後をめどに山の地すべり対策と国道の補強を行うことなどが説明されたという。この場所での再建を目指す板谷さんにとって一歩前に進んだと言えるが、本復旧の完了時期などは示されておらず、課題はまだまだある。

国道の復旧、山の地すべり対策は、まず雨期を含めた長期の監視を行って地下水の影響を調べないと復旧方針が決められないので、これほど時間がかかったのはしょうがなかったと言える。ただ、こうした事情は板谷さんへ十分説明されていなった。その結果、板谷さんが1年以上全く動けない状態が続いていたことは問題だったのではないか。また見積もりをとってくれる業者が見つからない件については、この1年住居の復旧が最優先されていたため、事業所などは後回しになっていた。今ようやくなりわい再建の方にも取りかかれるようになってきた状況だが、建築費の高騰でいざ見積もりが出ても立ち止まってしまう人が多いのが現状だ。
(石川テレビ)