能登半島地震の発生から1年3カ月。大きな被害を受けた石川県珠洲市正院町で、ある決意を胸に小学校を卒業した6年生に密着した。

「大変だった」2024年

珠洲市正院町にある仮設住宅の集会所。宇都宮孝弘くんはこの仮設住宅に住む唯一の小学生だ。この日孝弘くんは仮設住宅の住民たちを対象にしたお茶会に参加した。「白い泡出るまでめちゃくちゃ時間かかりそう」

宇都宮孝弘くん(中)
宇都宮孝弘くん(中)
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話題の中心はまもなく小学校を卒業する孝弘くんだ。住民が「卒業できるん?」と聞くと、孝弘くんは「小学生はもう一回続くっていうことはないですから」と答えた。「6年生の学校生活が印象に残っている。大変だったから」

被災した孝弘くんの自宅
被災した孝弘くんの自宅

この1年は孝弘くんにとって忘れられない出来事があった。2024年元日の能登半島地震。孝弘くんの住む正院町では大きな被害が出た。孝弘くんと家族は全員無事だったが、自宅は全壊。小学校で避難生活を送っていた。避難所では地域の人が子どもたちのために様々なイベントを企画してくれた。

町のために動く地域の人たちの姿を見て孝弘くんが友達と結成したのは、小学生12人からなる正院こども消防団だ。「行くぞ!初日の見回りがんばるぞ」

 
 

任務は、仮設住宅の見回り。高齢者が多い仮設住宅で住民の孤立を防ぐため自分たちにできることを考えた。「家を失った人、家族を失った人がいると思うので、そんな人たちを元気づけたいなと思ってやりました」

 仮設住宅の人気者 見えない心の傷

子ども消防団を結成して8カ月。今では仮設住宅の人気者だ。どんな時でも元気な姿を見せていた孝弘くんだったが、母・真江さんといるときは...。「母ちゃん、手は届くようにして」できるだけそばにいたいようだ。

真江さんは「スキンシップをしてくださいって宿題がでて、スキンシップやり放題。それからさらに甘えん坊になった」と話す。孝弘くんは「違う、地震からや。地震があってスキンシップが出てきてん」と説明した。まだ12歳。地震は孝弘くんの心に見えない爪痕を残していた。

 卒業式と新たな決意

3月17日の卒業式当日。「最後のランドセルだよ」と真江さんが声をかけると、孝弘くんは「これで学校通うのはね」と返した。「おおきなった」「母ちゃん顎上げんくていい」

卒業式で何をするのか孝弘くんに聞くと「卒業証書を渡されて、学校生活で学んだことを発表する」と教えてくれた。制服に手を通し、最後の登校だ。真江さんが「帽子いらん」と声をかけると、孝弘くんは「俺にも順序ってもんがあるんだよ。ランドセル軽いね。やべえな時間が」とマイペースに家を出た。

「宇都宮孝弘!」と名前を呼ばれた孝弘くん。卒業証書を受け取り、胸を張ってあいさつした。「僕が小学校生活で学んだことは、明るさがあれば大変なことも乗り越えられるということです。大変な地震がありましたが僕は落ち込むことなく明るかったので、周りの人を元気づけられたと思います。これからもこの明るさを大切にし周りの人を元気づけたいです」

町を明るくするという使命感を持って、孝弘くんは4月から珠洲市内の中学校に進学する。

(石川テレビ)

石川テレビ
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