静岡県浜松市で高齢者の運転する軽トラックが小学生の列に突っ込み、1人が死亡・1人が重体・2人が軽傷という痛ましい事故が起きた。こうした事故が起きる度に言われるのが運転免許の在り方だ。ただ、高齢者に対する現行制度がどうなっているのか知っているようで知らない人も多いのではないだろうか。

小学生が犠牲になる凄惨な事故

「車の前輪に小学生くらいの女児がはさまっている」

3月24日午後4時半過ぎ、浜松市中央区舘山寺町で緩やかな下りカーブを走行していた軽トラックが小学生4人の列に突っ込む事故があった。

この事故で2年生の女児(8)が死亡。

4年生の姉(10)も重体となっているほか、同じく4年生の双子の姉妹が軽いケガをした。

運転していたのは高齢の男(78)で、警察はその場で男を逮捕。

調べに対して、事故が起きた当時の状況について「覚えていない」と話しているほか、「過去にも気が付いたら事故を起こしていたことがあった」と口にしているという。

浜松市の事故現場(3月24日)
浜松市の事故現場(3月24日)
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高齢ドライバーの重大事故は後を絶たず

こうした高齢ドライバーによる重大事故は毎年のように起きていて、2019年には東京都豊島区東池袋で当時87歳だった男が運転していた車が暴走し、横断歩道を渡っていた母(当時31)と娘(当時3)が死亡した。

また、2022年には福島県福島市で当時97歳だった男がハンドル操作を誤ったことで歩道に進入し、100メートル以上走り続けた結果、5人が死傷。

男は事故の前、物損事故を複数回起こしていたものの、裁判では近場で食事をする際に車の運転をしていたことを明らかにした上で「免許を返納すればどこにも行けない。ご飯を食べることができない」と話した。

離れて暮らす長女は月に1回は男のもとを訪れ、再三にわたって運転を止めるよう進言していたものの聞く耳を持ってくれなかったそうだ。

高齢ドライバーの運転免許制度は?

道路交通法では、2002年から70歳以上のドライバーに対し免許証を更新する前に高齢者講習を受講することが義務づけていて、講習を受けないと免許を更新することができない。

高齢者講習ではDVDなどを使って交通ルールや安全運転に関する知識を再確認するほか、動体視力や夜間視力などを測定。

加えて、方向転換やクランク、S字カーブの走行など実車指導も行われるが、あくまでも講習であることから合否が判定されるわけではない。

一方、道交法の改正により75歳以上のドライバーについては2017年から高齢者講習の前に認知機能検査を受ける必要がある。

この検査で「認知症のおそれあり」と判定された場合、臨時適性検査の受検か診断書の提出が必要となり、「認知症である」と診断されると聴聞等の手続きを経た上で、運転免許の取り消し又は効力の停止となる。

さらに、75歳以上のドライバーで基準日から3年以内に信号無視や速度超過、安全運転義務違反といった違反歴がある人は、2022年から免許更新時に運転技能検査の受検も課されるようになった。

とはいえ、指示された速度での走行や一時停止、段差の乗り上げといった課題に対する技量を100満点で採点する運転技能検査だが、仮に不合格になったとしても繰り返し受験することが可能だ。

なお、運転免許証の有効期間は違反運転者、初回更新者、新規取得者を除き通常5年だが、70歳の優良運転者と一般運転者は4年、71歳以上はいずれのドライバーも3年となっている。

75歳以上のドライバーはバイクも含む自動車の運転中、認知機能が低下した時に起こしやすい通行禁止違反や交差点右左折等報法違反など“一定の違反行為”をすると臨時認知機能検査を受けなければならないが、裏を返せば偶然にも違反がなかった場合には認知機能の衰えを警察が把握できる機会は免許更新の時しかない。

また、統合失調症やてんかんといった“一定の病気等”の把握についても免許の更新時に症状をたずねる質問票があるだけで、もちろん虚偽記載が発覚した場合には道路交通法違反の罪に問われるが、あくまでも性善説に伴う“自己申告”だ。

運転免許の自主返納は減少傾向

警察庁によれば日本では高齢化が進んでいるにも関わらず、2019年に60万1022件だった運転免許の自主返納が2020年に55万2381件、2021年に51万7040件、2022年に44万8476件、2023年には38万2957件と、2024年こそ42万7914件と持ち直したものの減少傾向にある。

たしかに人手不足や利用者の減少などを背景に、全国的に過疎地や中山間地におけるバスの廃線や減便が相次ぐ昨今にあって、車を運転しなければ生活が成り立たないという人がいるのも事実だ。

とはいえ、高齢ドライバーによる事故が後を絶たないことも事実。

この問題は国会でもたびたび質問があがるが、凄惨な事故を1件でも減らすためにも議論の前進が求められている。

(テレビ静岡)

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