「トランプの米国は、自由の女神の精神にそぐわないから女神像を返してほしい」とフランスの議員が要求した。

フランスの中道左派プラース・プブリックのラファエル・グリュックスマン欧州議員は17日、パリで行った演説の中で次のように述べた。

「アメリカの圧政者側につくことを選んだ人たちへ、科学の自由を示した研究者たちを解雇した人たちへ、私たちはこう言います。
自由の女神を返してくださいと。あなたたちはそれを贈り物として受け取ったはずですが、どうやらそれを軽んじているように思えます。
だからこそ、女神は私たちと共にいる方が幸せでしょう」

“世界の自由と民主主義の象徴”

自由の女神像は、米合衆国独立100周年を記念してフランス人の募金によってニューヨーク港のリバティ島に建造され、米国だけでなく世界の自由と民主主義の象徴のような存在として知られる。

自由の女神像
自由の女神像
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しかし、米国の第二次トランプ政権のやることは、女神像の精神にはそぐわないのでフランスへ「返せ」というのだ。

現実に仏政府が変換要求するとは思えないが、米国のシンボルのような女神像の存在を否定するというので米国内で話題となり、ホワイトハウスの定例の記者会見でも、FOXニュースのピーター・デューシー記者がこう報道官に詰め寄った。

「フランスの欧州議員が、米国はもはや自由の女神が象徴する価値を実践していないから、女神像を返して欲しいと言っています。トランプ大統領は返すのでしょうか?」

レビット報道官は「フランス人がドイツ語を話していないのはアメリカのおかげ」と発言(3月17日)
レビット報道官は「フランス人がドイツ語を話していないのはアメリカのおかげ」と発言(3月17日)

これに対してキャロライン・レビット報道官がこう言い返したのが、さらに一悶着をひき起こすことになった。

「絶対に返しません。その名前も知らないフランスの低級な政治家には、私から伝えたいアドバイスがあります。それは、フランス人が今ドイツ語を喋っていないのは、ひとえにアメリカ合衆国のおかげだということです。彼らは大いに感謝すべきなのです」

「英雄たちの米国はプーチンの友ではなかった」

これを伝え聞いたグリュックスマン議員は18日、Xを10回連続て発信して次のような長文の抗議文を掲載した。

「親愛なるアメリカの皆さんへ
ホワイトハウスの報道官が今日私を攻撃したことについて、皆さんにお伝えしたいことがあります。
米仏両国は、歴史や共に流した血、そして自由への情熱によって深く結ばれています。その情熱は、この像(自由の女神)によって象徴されています。この像は、フランスが米国の輝かしい革命を讃えるために贈ったものです。
米国の恥ずべき政権の報道官は、米国がなければフランス人は『ドイツ語を話していただろう』と言いました。実は私の場合は、それ以上の意味があります。もし何十万もの若きアメリカ人がノルマンディーの浜辺に上陸しなかったならば、私はここに存在していなかったはずだからです。したがって、これらの英雄たちとその犠牲に対する私たちの感謝は永遠のものです」

口論になり決裂した米ウ首脳会談(2月28日)
口論になり決裂した米ウ首脳会談(2月28日)

「しかし、これらの英雄たちの米国は、暴君に媚びるのではなく戦いました。ファシズムと敵対したのであり、プーチンの友ではありませんでした。レジスタンスを助けこそすれ、ゼレンスキーを攻撃することはしませんでした。
その米国は科学を称え、禁止された言葉を使った研究者を解雇することはしませんでした。迫害された者を受け入れこそすれ、標的にはしませんでした。その米国は、今のあなた方の大統領が行い、語り、体現している国とは、まるで異なるものでした」

「自由の女神像に刻まれた素晴らしい言葉に忠実な、この米国――あなた方の米国――は、ウクライナとヨーロッパへの裏切り、排外主義、そして暗愚よりも、遥かに価値のある国であるはずなのです。
ヨーロッパの私たちは皆、米国を愛しています。私たちは米国に多くを負っていることを知っています。そして、米国はいつか再び立ち上がると信じています。あなた方も再び立ち上がるでしょう。私たちはあなた方を信じています」

「私はトランプによる裏切りに恐怖を覚えているからこそ、昨日の集会でこう言いました。『もしあなた方の政府が、この像があなた方や私たち、そして世界の目に象徴するすべてを軽視するならば、私たちは象徴的に自由の女神を取り戻すこともできる』と。それは、目を覚ましてもらうための呼びかけでした。
もちろん、誰も自由の女神を奪い去ることはしません。この像はあなた方のものです。しかし、それが象徴するものは、すべての人のものです。もしあなた方の政府が自由な世界に関心を失ったのなら、私たちがここヨーロッパでその灯を引き継ぐでしょう。
再び自由と尊厳のために共に戦うその日まで――
私たちは、共に紡いできた歴史を受け継ぎ、私たちの宝物を守り続けます。それは、銅と鋼でできた像ではなく、それが象徴する自由なのです」

かつて米国への移民が盛んな頃、新天地に夢を求めて海を渡ってきた移住者がこの女神像を目にすると、希望を新たにしたと言われるが、今ではさまざまな口実で入国を拒否されたり、強制送還される移住者が失望の思いをこめて振り返る存在になってしまったのかもしれない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】 

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。