大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、その後の裁判で無罪になった大手不動産会社の元社長・山岸忍さんが、3年前に国を訴えた裁判。
大阪地裁は、「検事の威迫により虚偽供述をしたことが明らかとまでは言えない」、「山岸さんに対する起訴が批判を受ける部分があることは確かだが、国家賠償法上、違法ではない」とし、国に賠償責任はないという判断で、山岸さんの訴えを退けた。

■弁護団は一瞬あぜんとしたような表情
国家賠償請求訴訟に関して、山岸さんの訴えは退けられることになった。この裁判を取材してきた、関西テレビ・赤穂雄大記者が解説する。
判決の時、山岸さんや法廷の様子はどうだったのか。
赤穂雄大記者:まず判決が出た時、法廷が異様な空気に包まれ、弁護団は一瞬あぜんとしたような表情を浮かべました。検察側は開廷前厳しい表情だったのですが、判決後ちょっと表情が緩んだような印象も受けました。

■「著しく不適切な取り調べ」としつつ「これで虚偽供述に至ったとは断定できない」とした裁判所
映像に残っている、大声をあげたり、机をたたいたりする取り調べだが、判決の中で「著しく不適切な取り調べ」としながらも、山岸さんの訴えは棄却という判断になった。
赤穂雄大記者:今日の判決を理解する前提として、山岸さんは無罪判決が確定しているという点は押さえておきたいところです。それで今日の裁判は、取り調べの違法性を判断する裁判ではなくて、山岸さんの逮捕や起訴が違法かどうかを判断する裁判でした。
赤穂雄大記者:今日の判決の中で、逮捕・起訴の違法性の判断基準として、『検察官の経験などに照らしてもとうてい合理性がないような場合に限られる』というふうにしました。これは従来の裁判例に比べても非常に高いハードルを、今回の判決では示しています。そこは弁護団も指摘していました。

赤穂雄大記者:強引な取り調べで出た供述が問題視され、その取り調べの問題点を認めつつも、今回の判断基準は満たさなかったということになるんだと思います。
赤穂雄大記者:今日の判決で一番印象に残ってる部分が、『著しく不適切な取り調べ方法ではあるが』と前置きしつつ、『これで虚偽供述に至ったとは断定できない』と判決文の中に書いてありました。あのような取り調べを容認しているのではないかというふうにも読めました。
赤穂雄大記者:裁判所という最後のとりでが、このような判断をしてしまうことに、すごく驚きを感じました。

■「この判決はおかしいと学者として感じる」と藤井教授
番組コメンテーターで京都大学大学院の藤井聡教授は、「こんなこと断定できないと言っていたら、世の中に断定できることなんて一つもない」と、今回の判決に疑問を投げかけた。
京都大学大学院 藤井聡教授:一番のポイントは、あの取り調べによって虚偽供述が引き出されたかどうかということ。常識の範囲で考えて、恐らく理論的な学術研究や心理学研究などで検定したとしても、あの取り調べによって虚偽供述が出てきたことは明らかだと私は考えます。
京都大学大学院 藤井聡教授:世の中に明らかなことは本当はなくて、99.9パーセント正しくて、ひょっとしたら間違っていることがあるかもしれない。そのレベルの文言だと思います。『虚偽供述に至ったとは断定できない』と言う。こんなこと断定できないと言っていたら、世の中に断定できることなんて一つもないですよ。私はこの判決はおかしいと学者として感じます。

■検察はチェック制度作っても機能していないのでは
関西テレビ 神崎博報道デスク:検察はこれまで何度も冤罪事件を生み出してきた。厚生労働省の村木さんが無罪になった事件を受けて、検察は『検察の在り方検討委員会』という、検察の捜査自体を見直しましょうと、立ち止まる勇気を持とうということで会議を開いた」
関西テレビ 神崎博報道デスク:その時に、検察、特に特捜部の事案であれば、逮捕から起訴まで全部検察でやってしまうと誰もチェックする人がいない。そこで統括審査検察官という第三者的にチェックする人を検察の中に設けて、捜査の仕方は大丈夫なのかチェックする人を置いた。
関西テレビ 神崎博報道デスク:それにもかかわらず、今回実はその統括審査検察官が取り調べ映像を見ているんです。見た上で報告はしているのですけど、結果的にはスルーされ、要はチェック機能が働かずに起訴に至っている。やはり検察には自浄作用がないというか、制度を作ったにもかかわらず、チェック機能が働いていないというところ。これは裁判でも指摘されていて、本当にもう1回見直すべきだと思います。

山岸さんは控訴する方針だということだが、今後の裁判はどのようになるのだろうか。
赤穂雄大記者:この裁判は、検察の捜査のあり方というのが問われている裁判だと思います。ですので、今回の判決ではその部分が、原告側の訴えとは逆の判決になってしまったので、高裁にあがって、激しい争いになるだろうと思っています。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年3月21日放送)
