今までの学校をひっくり返す

 
 
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俳優・映画監督・実業家と様々な顔を持つ伊勢谷友介氏は、環境や教育など社会活動にも熱心に取り組んでいることで知られている。一昨年には社会課題を解決する人材開発プロジェクト、平成版「松下村塾」を行った

来るべきポスト平成の時代、伊勢谷氏はこれまでの学校・教育の概念をひっくり返す高校づくりを目指す。伊勢谷氏がこの4月に開校する高校の名前は「Loohcs(ルークス)」。キャッチコピーは「問題児求む!」だ。ルークスは既存の学校や教育システムになじめない「問題児」や「変わった子」に、もっと輝ける場所を提供し、彼らの才能を伸ばすことを目指す。だから「Loohcs」という名前には、今までの学校=「School」をひっくり返すという想いが込められている。

学校の1日はこうだ。朝集まると高校の一般科目から1人1人にあった学習計画にあわせた教材などを使った個別授業を行う。画一的な授業は一切行わない。午後はPBL=プロジェクト型学習となり、ビジネス、リベラルアーツ(伊勢谷氏が監修)、テクノロジー、クリエイティブ分野など、社会の一線で活躍する専門家たちが授業を行う。1日の終わりは友達と学んだことについて対話し、学びを深める。

ルークスには制服もルールもない

 
 

ルークスには制服はなく、学校運営の多くは子ども達に委ねられる。プロジェクト型学習を担当する笠井成樹教頭は言う。
「この学校には運動会や修学旅行といったものはありませんが、学校の行事や運営ルールについては、生徒が自主的に話し合います」
この4月には1~3年生で30名超の生徒が入学する予定だ。

「ポジティブな意味での懸念は、見事に多様性・ユニークという言葉がこれほど合う学生が集まってきたことですね。ロボコンをやってきたとか、国連の職員になって貧困をなくしたいとか」(笠井教頭)

都内で今月開かれたルークスの公開授業には、入学を決めた(一部検討中の)子どもたちと保護者がやってきた。子どもたちがルークスを訪れた動機は、「今通っている学校のスピードについていけなくなった」「いろいろな人の意見を聞いてみたい」など様々だ。

この日行われた授業はPBL=プロジェクト型学習。グループディスカッションのテーマは、「自分がチャレンジしたいことのうち、仲間と共に考えアクションを起こしたいものは何か」だ。子ども達はアイデアを「Issue=解決したい問題は?」「Will=なぜ自分事?」「Action=具体的な最初のアクションは?」の流れに沿ってプレゼンする。

「枠からはみ出た子どもたちを集めるコミュニティ作りをしたい」「私の『好き』を広めたい」など、子どもたちは饒舌に、熱く自分の意見を語り合っていた。

子どもたちが夢中になれるものを提供する

 
 

伊勢谷友介氏にルークス開校に賭ける想いを聞いた。

ーー伊勢谷さんは以前「今のやり方だと、画一化された生徒ができる。だから画一化されなくても許容できるのが、教育の分野ではかっこいいんじゃないのかな」とおっしゃっていました。今回開校する学校はまさに「画一化」と真逆になりますね?

結局大人がやらなきゃいけないことって、子どもが夢中になるまで付き合ってあげること。今の子ども達は夢中になるものを見つけた瞬間に、ネットで関連する情報を探し、調べることが出来るんですよね。生徒によって何が楽しく夢中になれるのかが違うので、僕らがやりたいのはとことんまで様々なコトに触れさせてあげる事だと思います。この学校では高等学校教育として最低限必要なカリキュラムを受け、それ以外の部分は子どもたちが夢中になれることを伸ばすことができる。我々がどれだけ夢中になれることを提供できるかということです。

あとは、何かしらの壁が出てきたときに乗り越えた経験のある大人や、その次のレベルを提供できるような方々をサポートに付けて一緒に乗り越える力を付けてあげたいですね。

 
 

「宇宙人の視点」を持て!

ーー伊勢谷さんはリベラルアーツを監修しますが、授業では「答えのない問いを考える」をテーマに「サピエンス全史(ユヴァル・ノア・ハラリ著)」も使うそうですね。

子どもには「宇宙人の視点」を持てと。人類を俯瞰・長軸で見て、人類の成り立ちをきちんと知ることによって、人類はどうなっていくんだろうと考える。この過程や流れを知らないと、次の流れ、IoTとかAIが人類にどこまで影響を及ぼすものなのかもわからない。

現にこれをわかっている大人も多くはいないと思うので、子ども達には宇宙人の視点で見ることで、今の人類のどこを直せばいいんだという気づきや発見につながってくれればいいなと思います。そういうリベラルアーツ的な視点、概念を持つ大人になってもらいたいです。

 
 

ーー伊勢谷さんが目指すのは一種の「英才教育」にも聞こえますね?

いえ、天才は偶発的に出てくるので、「スーパー2番手」になれる人材が必要だと思っています。スーパー2番手は、天才や志を持った人の思いやアイデアを形に変えるための実行力を持った人。天才1人じゃ世の中は成立しないんです。なのでその天才が革新的なことを始めたとき、それを世の中の「当たり前」にしていくために、きちんとバックアップをする。天才は常識外れのことを言い出すんだけど、それは未来の「種の存続」につながっていて、みんなが「いいな」と共感をしていく。これを作るのはスーパー2番手なんです。

ーー伊勢谷さんの周りにいる人がスーパー2番手?

そうですね、僕は天才ではありませんが、周りにいる仲間はスーパー2番手だと思っています。みんなにいろいろなサポートをしてもらいながら、アクションを起こしています。自分自身、出来ない事に対してすごく苛まれつつも、僕の「こうなって欲しい」という想いを周りの仲間と少しずつですが形にしていっています。

 
 

インタビュー中伊勢谷氏からは、「種の存続」「宇宙人の視点」と印象的な言葉が飛び出した。画一化された教育の枠からはみ出す「問題児」「変わった子」が、時代を変え、新たな時代を作る。伊勢谷氏の想いが、どんなかたちの学校となるのか楽しみだ。

【取材:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。