老人会は健康で生き生きと長生きすることを目指す団体だ。石川県内には1200ほど老人会があり、60歳以上の約8万人が会員として参加している。このうち金沢市藤江町の老人会は5年間で会員の数が倍近くに増加。その裏にはある秘密があった。

健康長寿目指す老人会の活動

神社で執り行われていたのは、還暦になった人の厄払いの神事。神事には参加せず、スマートフォンで写真を撮る男性がいた。澤本久さん、73歳だ。「ばっちりです。うちの老人クラブにも加入していただいたのでご挨拶と、もう一つは会報に載せる写真を撮りに来た」そう話すと澤本さんは「これから、人生楽しみましょう」と参加した人たちに笑顔で声をかけた。

澤本久さん
澤本久さん
この記事の画像(10枚)

今回の舞台は、石川県金沢市藤江町。県庁や県立中央病院にほど近い地域だ。「よし1月号完成~。皆さんには白黒でいくんですよ」藤江町の老人会、健寿会。夏はグランドゴルフ、冬は輪投げ。さらに地域の草刈りや登下校する子どもたちの見守りなどさまざまな活動をしている。そして2018年から毎月欠かさず発行しているのが会報誌「健寿会だより」だ。

会報誌「健寿会だより」
会報誌「健寿会だより」

会報誌にはその月にあった行事を写真付きで詳しく載せている。目指しているのは「子どもからお年寄りまで、地域全体が元気になる会報誌」だ。澤本さんが「老人会の活動を広く伝えたい」と始めて、80号を数えた。

こだわりが詰まった会報誌

「お祓いを執り行いましたでいいんじゃない?お祓いで神事っていうのはわかるから」記事をチェックする校閲の作業。誤った表現がないか、もっとわかりやすい文章にならないか、毎月必ず老人会のメンバー2人が澤本さんの文章をチェックしている。

「生徒って書いてあるけど、生徒は中学校以上だから小学校は児童だから児童でいいんじゃない?」指摘したのは小学校の元校長、岡部さんだ。「年齢層が高いので、あまり難しく書くとみんな読むの嫌になるだろうなと思うと、なるべく一文を短くしてわかりやすい感じになるように文を切るようにしている」指摘を受けて早速記事を修正する澤本さん。65歳までJRの技術職員として働き、パソコンを使った作業はお手の物だ。「よっしゃこれでいいな」

仕上げの作業は老人会のメンバーで会員170人分を1枚ずつ折り込んでいく。「脂はなくなるし、指紋はなくなるし、困ったもんや」メンバーは「全然苦じゃない、前の月にやったことが全部載ってるでしょ。誰よりも先に見られるから」と生き生きと取り組んでいる。毎月20日が会報誌の発行日。1軒ずつ手渡しで配る。「今月の健寿会だよりです、また見てください」

受け取った男性(88)は「いつもありがとう。年行ってくると友達が減ってくるから、やっぱりいろんなことがわかるからうれしい。寂しいより活性化してるってうれしいじゃないですか、喜んでおります」と話す。また91歳の男性は「あーこれはこれは。ありがとうございます。全部読んで、全部置いてあります。暇あったら繰り返して読んでる。絶対これ必要。これあって初めて会の活動はこうと説明できるわけ」と嬉しそうに会報を受け取った。

会報誌発行で会員数1.8倍

澤本さんが加入した2018年ごろ、藤江町の老人会の会員数は100人を切り過去最低に。また半数近くが80代以上と会員の高齢化が進んでいた。そこで澤本さんが始めたのが、会報誌の取り組みだ。会報誌は町の回覧板や公民館でも掲示され誰でも見られるようにすることで、住民に活動を知ってもらう機会が増えた。その結果、現在の会員数は170人と会報誌を作る前の1.8倍に増加。県によると金沢市内のほかの地域と比べても藤江町の老人会は加入率が高くなっている。60代の若い会員も増え、藤江町の老人会の活動は金沢市や県、国からも表彰された。

会報誌を続けたことで生まれた不思議な縁もある。2024年の能登半島地震の後、輪島市門前町から避難した山崎勇さん(91)ときよみさん(87)夫婦。元々藤江町に住んでいた山崎さんの孫が会報誌を見て、ここに避難したらどうかと勧めたそうだ。

藤江町に移り住んだ山崎さん夫婦
藤江町に移り住んだ山崎さん夫婦

勇さんは「地元のことは気になる、みんなどうしているのかなって心配は毎日のように…。健寿会に入らせてもらって皆さんあったかい。受け入れていただけることに感謝している」と話し、妻のきよみさんも「向こうのこともすごく気になるけど、こういう楽しい会に入会させてもらって、この生活も楽しいなって。避難者であるけども言うことない生活やなと思います。幸せです」と話した。

会報誌は会員の絆結ぶ伝書鳩

この日、澤本さんの姿は市内のホテルにあった。県内の老人会の代表が集まる会で、澤本さんは県から会報誌の取り組みについて紹介してほしいと依頼を受けていた。「こういうのがあれば一発でみんなに伝えることができる。あなた載ってたねとかっていうようになって、また喜んで活動に出てくれるようになった」

野々市市の代表者は「偉いですよ、あんなにこまめにできるのなかなかね。老人会ってどういうことをしてるのか機会があるごとに話しているんですけど、なかなか難しい」と話し、また羽咋市の代表者も「素晴らしい。やってみようかな」と刺激を受けていた。澤本さんは「藤江の地域が県内の皆さんに認められたことは誇りに思うし、頑張りたい」と気持ちを新たにしていた。

2024年12月には地元の高校生とクリスマス会を開いた藤江町の老人会。参加したメンバーからは笑顔があふれ、にぎやかな会になった。澤本さんは老人会の活動を通じてお年寄りが元気で生き生きと長生きするために①健康づくり②仲間とのつながり③地域での役割、この3つが大切だと考えている。

会報誌はそんな老人会の元気な活動を支える一助になっているという。「年寄りも元気になる。地域も元気になる、会報はみんなで絆を結びつける、毎月の伝書鳩です」今後は会報誌作りを60代の若い人たちにも手伝ってもらい、澤本さんを中心に継続して発行できるようにしていきたいそうだ。

(石川テレビ)

石川テレビ
石川テレビ

石川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。