2024年12月3日、韓国社会を混乱の渦に陥れた「非常戒厳」。
その責任を問われ国会から弾劾訴追された尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾審判が2月25日、結審した。罷免となれば大統領選挙が行われる。

まさに弾劾審判の結果は韓国の行く末を左右するわけだが、審理が十分に尽くされていないと指摘する専門家もいる。その理由とはー
1時間超に及ぶ尹大統領側の言葉 “国民への謝罪”と“職務復帰への思い”
濃い紺色のスーツに赤いネクタイ姿で現れた尹大統領が最終陳述を始めたのは午後9時過ぎ、用意された約2万字の原稿を読み上げるのに1時間超を要した。
「国民が『仕事をしろ』と任せてくださった時間に自分の仕事ができずにいる現実が申し訳なく胸が痛かった。一方で、多くの国民が依然として私を信じてくれている姿に、重い責任感も感じた。国民の皆様に申し訳なく、感謝の言葉を先に申し上げたい」
“国民への謝罪”から始まった尹大統領の最終陳述。

これまでの主張と同様に野党への批判を繰り返し、「国民にこのような巨大野党の反国家的な弊害を知らせ、国民に厳しい監視と批判で彼らを止めてほしいと訴えようとした。国家機能を正常化するために切迫した心情で非常戒厳を宣言した」と非常戒厳の正当性を改めで主張した。
そして、尹大統領は“職務復帰への思い”も口にした。
専門家「話にならない」
「私が職務に復帰することになれば、未来世代にきちんとした国を残すための改憲と政治改革の推進に集中しようと思う。国民の意思を集めて速やかに改憲を進め、韓国社会の変化によく合う憲法と政治構造を誕生させることに全力を尽くします」
高麗大学法学専門大学院のチャン・ヨンス教授は、「国民に国家の危機を知らせるために非常戒厳というのは法理的に話にならない」と指摘。
その上で、「尹大統領が最終陳述で憲法裁判所を刺激することを避け、政界や国民にメッセージを発信することに集中した」と分析する。

さらに、尹大統領が“職務復帰への思い”を述べたことについては、「(尹大統領が)復帰後に第2、第3の非常戒厳があるだろうという話を迂回的に否定するためだった」とみている。
尹大統領を罷免するかどうか、憲法裁判所は8人の裁判官で審理を進め、3月中旬にも決定を言い渡すとみられている。
しかし、憲法裁判所の判断の行方について、チャン教授は「この状態で憲法裁判所が決定を下すならば、国民が信頼するだろうかという懸念が大きい」と話す。
明らかにされなかった「不法の重大性」
今回の弾劾審判で、罷免するかどうか決定するための最大の争点は「不法の重大性」だったとチャン教授は言う。
すなわち、「非常戒厳の宣言が“内乱”にあたるかどうか」ということだ。非常戒厳の宣言が内乱にあたるかどうか判断するための重要な要素として、チャン教授は以下の2つを挙げる。
・尹大統領が野党代表などを含む主要政治家を拘束するよう指示したか
・尹大統領が非常戒厳の解除を議決するために集まった国会議員を国会から引っ張り出すよう指示したか

これらについて、11回に及ぶ弁論の中で、関係者から「指示があった」という証言は出たものの、証言した人物に野党との密接な関係が疑われるなど、結局のところ真実は分からないままだ。
チャン教授は「互いに食い違う主張だけがあって、確定しない状態で弁論が終結してしまった」と指摘する。
韓国の聯合ニュースは、「憲法で定められた非常戒厳の要件に合致せずに非常戒厳を宣言し、国会の政治活動を禁止しただけでも弾劾の理由は十分だ」などとする専門家の意見を伝える一方で、「弾劾審判の弁論でさまざまな争点が浮き彫りになり、尹大統領側が一部の証人の供述や証拠の信ぴょう性を問題視したため、弾劾訴追が棄却・却下される可能性を指摘する見方もある」としている。
尹大統領の弾劾めぐり分かれる“世論”
尹大統領の弾劾について国民はどう考えているのか。リアルメーターが24日に発表した世論調査では、「弾劾賛成」が52%、「弾劾反対」が45.1%となり、憲法裁判所の弾劾審判での手続きについて、「公正だ」が50.7%、「不公正だ」が45%とほぼ意見が拮抗している。一方で、韓国ギャラップが21日に発表した世論調査では、「弾劾賛成」が60%、「弾劾反対」が34%となっている。

尹大統領の弾劾の是非を巡り、国民の意見が分かれる中、最後の弁論が開かれた25日には、「大統領国民弁護団」と名乗るソウル大学や延世大学の学生などが、憲法裁判所に弾劾反対を訴える19万人の署名を提出した後、憲法裁判所の前で会見を開き、「尹大統領の職務復帰を切に望んでいる」と話した。
憲法裁判所の判断は 3月中旬にも決定言い渡しか
憲法裁判所の裁判官8人のうち、6人以上が同意すれば尹大統領は罷免となる。
罷免するかどうかの決定は、3月中旬にも言い渡されるとみられていて、韓国の聯合ニュースは、「盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領と朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾審判では金曜日に結論が言い渡された。」として、「3月14日が有力視されている」と伝えている。罷免されれば60日以内に大統領選挙が行われる。

アメリカでトランプ大統領が就任し、日本をはじめ各国のリーダーは、続々と会談を行う中、出遅れ感が否めない韓国。
ここから巻き返しを図るためにも、まずは弾劾審判の決定が注目される。