2019年11月に難病の筋萎縮性側索硬化症=ALSの女性を殺害したとして、医師2人が逮捕・起訴された。
女性は「死にたい」と切望し、SNSで知り合った2人に殺害を依頼したとされている。
この事件は同じ難病の患者や支援者に波紋を呼び、社会に重い問いを突き付けている。
沖縄テレビ・金城わか菜アナウンサーが、沖縄県内の患者らを取材した。

OTV 金城わか菜アナウンサー(別取材時)

『死ぬ権利があってもいい』が広がっていく先の危険

沖縄県内で難病患者を支援するNPO法人アンビシャス。
副理事長を務める照喜名通さんは自らも難病のクローン病を患っている。
事件直後、インターネットで「尊厳死・安楽死」を認めるべきだという声が高まったことに危機感を覚えている

NPO法人アンビシャス・照喜名通副理事長:
今回の事件は嘱託殺人。要するに安楽死の条件も整っていない。
安楽死が認められているスイスでは、『主治医である』ことや『末期でこれ以上治療が無い』、『本人が最終的に明確な意思がある』などという条件がある。
『死ぬ権利もあっていいじゃないか』と同情に似たような意見が少しずつ広がっている。とても怖くて、今生きている人達に失礼。
『死ぬ権利があってもいいじゃないか』という意見が広がっていくと、難病患者本人が『死なないといけないんじゃないか』と思ってしまうことが怖い

沖縄県によると、沖縄県内で暮らすALSの患者は108人。
新型コロナウイルスに感染すれば重症化するリスクが高いため、対面ではなく、メールで当事者に話を聞いた。

「知性そのままで、身体の中に閉じ込められてしまう」

浦添市在住のALS患者・浦崎綾乃さん(取材時38歳)。

脳からの司令が運動神経に伝わらず、全身を動かすことができない。
コミュニケーションをとるには、視線を動かして文字を入力する装置が欠かせない。

浦崎さんがALSを発症したのは4年前。
病気の進行が早く、気持ちの整理もつかないまま、医師から延命装置として人工呼吸器を付けるかどうかの判断を迫られた。

ALS患者の浦崎綾乃さん:(メール)
ALSという病は精神的な苦痛が強いのかもしれません。
知性はそのままで、自分の身体の中に閉じ込められてしまうのですから。
診断告知を受けた当初は、『家族に迷惑をかけたくない』『中途障害者になることへの拒絶』『延命治療をしなければ余命2年という恐怖』。
どうしたらいいのかわからない気持ちでした

浦崎さんは告知を受けたあと、病院でビデオを使ってALSについて知識を深めたが、支援制度や介助サービスなどの説明は乏しかったという。
人工呼吸器を付けたあと、どういう暮らしになるのか描くことができなかった。

そんな時に、同じ病気で療養しながら生きる人々とSNSを通して知り合った。

ALS患者の浦崎綾乃さん:(メール)
私は、同じ病でロールモデル(模範)となる方と出会い情報を得ることができ、自分の生活を組み立てることができたので、延命治療を受けて自分の気持ちと折り合いをつけながら今も生きて生活しています

浦崎さんは人工呼吸器を付け、夫やヘルパーの解除を受けながら、自宅で療養生活を送っている。

‟心の浮き沈み“支える訪問カウンセリング等の制度がない

アンビシャスの照喜名副理事長は、「難病患者が療養途中で生きることに絶望したり、一時的に死を望んだりすることは起こり得る」と指摘し、「患者の気持ちに寄り添う支援が不足している」と憂慮する。

NPO法人アンビシャス・照喜名通副理事長:
原因不明の難病で治療していたら、心の浮き沈みがある。
日本では、カウンセリングの専門家による患者の訪問、臨床心理士の訪問という制度が無い

ALS患者の浦崎綾乃さんは、9歳の娘・結衣さんと「口文字」で会話する。
浦崎さんが口を母音の「あ」形にすると、結衣さんが「あ・か・さ・た・な…」と声に出し、浦崎さんは伝えたい文字の時に、瞬きで合図する。こうして言葉を確定する流れだ

ALSを患ってからも、家族で外出したり、夢だったマリンスポーツにチャレンジしたりと今を生きる浦崎さん。
取材に対するメールは、こんな言葉で締めくくられていた。

ALS患者の浦崎綾乃さん:(メール)
重度障害者になった今でも、私はあの時に生きる決断が出来て良かったと思っています。私の感覚や意識・思考は損なわれることはありません。病気は私の全てではなく、ひとつの側面でしかないからです。
私は決して不幸ではなく、病気になったからこそ知り得たことや、出会い、人の優しさに触れることがたくさんありました。
一度きりの人生。へこたれず、しぶとく、楽しんで生き切りたいと思います

<取材後記>金城わか菜アナウンサー
「死ぬ権利」を主張する声に押され、難病患者たちの「生きたい」という気持ちが否定されることはあってはならないと思います。
浦崎さんは、「『病気になっても安心して暮らせる社会』を実現するために、皆で考えてほしい」と訴えていらっしゃいました。

OTV 金城わか菜アナウンサー

(沖縄テレビ 金城わか菜)