福井・大野市に県内唯一の日本百名山「荒島岳(標高1523メートル)」がある。1月末、厳冬にしか見られない雪と風が生み出す造形美を求め、撮影に向かった。そこには脅威と美しさ、表裏一体の自然の姿があった。
夜明け前、ヘッドライトを頼りに出発

1月22日午前5時半、日の出前に荒島岳の麓にある勝原登山口で、登山ガイドの脇本浩嗣さんと合流。辺りはまだ真っ暗だ。ヘッドライトの明かりを頼りに、山頂に向けて出発。

凍って固くなった雪が、踏みしめる度にギュッギュッと小気味よい音を立てる。徐々に東の空がオレンジに色づき始め、視界が開けてくる。

夜明け近く、太陽が顔を出す前の静寂なひととき。

午前7時。迎えた日の出の時刻。真っ赤な太陽が周囲を赤く染めていく。木々の間から届く日の光で、純白の雪も茜色に輝く。
荒島岳の最難所が待ち受ける

登り始めて約2時間。標高約1200メートル地点にある荒島岳の難所「もちが壁」に到達。急な斜面が続き、次第に息が上がる。ストックをついて一歩一歩、足元を踏み固めながら登っていく。

幸い好天に恵まれ、視界は良好。聞こえるのは、雪を踏む靴音と風の音。眼下に広がる雄大な景色に励まされ、もうひと登りだ。
強風と雪の造形美「シュカブラ」や「エビの尻尾」

ガイドの脇本さんが立ち止まる。「これがシュカブラ」と見せてくれたのは、風が強く吹くことで形成される波状の“雪の造形美”だ。

少し登ると、今度は「スノーモンスターになりかけ」と見上げた。樹木に水滴などが凍り付きその隙間に雪が付着してできるスノーモンスターを見ることができた。

空に溶け込むような目の前に広がる大きな斜面を登りきると標高1420mのポイント、中荒島に到着。

標識には、霧状の水分が風の方向に伸びて冷え固まった、こちらも雪山ならではの造形美“エビの尻尾”が。
冬山には危険もはらむ

山頂までは残すところ400メートルほど。しばらく登ると、深い雪の割れ目「クレバス」が現れた。幅2メートル、深さ7メートル、長さは50メートルを超える。バランスを崩そうものなら、ひとたまりもない。慎重に歩みを進める。

出発から3時間半で、標高1523mの山頂に到着。気温は氷点下7度、風速7メートル。山頂にあるはずの標柱は、すっぽりと雪に覆われている。大きく開けた山頂からは、四方の山々に囲まれた大野市内を見渡すことができる。雪深い冬ならではの光景だ。

厳冬の荒島岳で出迎えてくれたのは、壮大な雪景色や雪の造形美。ただ、油断をすると命をとしかねない危険もはらむ。例年、クレバスが発生するのは雪解けが始まる3月頃だというが、今シーズンの雪は水分が多く、凍りつかずに早い時期に発生している。

冬の登山は、装備はもちろんのこと、天気予報や山の状況をみて綿密な計画を立てる必要がある。単独での行動は避け、なるべく経験者と同行することも必要だ。