テレビ愛媛のEBCライブニュース「きょうの俳句」コーナーでは視聴者の心に響く一句を届けてきた。2024年は過去最多の9642句もの作品が寄せられ、この中から年間大賞を決定。大賞の作品には、日常の一瞬を切り取る俳句の魅力が凝縮されていた。
夏の躍動感あふれる小学6年生の句
審査を担当したのは、愛媛・松山市出身で現在は東京都で活動する若手俳人のトップランナー神野紗希さん。寄せられた作品全体について「全国から、あるいは幅広い世代から投句をいただいて、広がりを感じてます」と講評する。
審査員・神野紗希さん:
作品にも地域性が出たり、それから、それぞれの生活の独自のものが出てきたりして、ユニークな、作品も幅の広がりが出てきたということを楽しみに拝読しています。
まずは、ジュニア大賞の発表だ。

「焼けたはだ 冷やせ飛び込む プールかな」
西条市立国安小学校6年の田中渚人さんの句だ。
田中渚人さんは「本当に僕が選ばれたのかとびっくりした気持ちになりました」と喜びを語り、「夏にお父さんに勧められて作ってみました」ときっかけを明かした。

渚人さんの父は小学校の教員だ。父・田中慎也さんは「国語の学習で俳句の単元があるんです。学級の子どもたちと作っている中で我が子にもぜひやってみないかと勧めてみました」と経緯を語った。
審査員の神野紗希さんは、この句の魅力は「臨場感」だと評価する。

審査員・神野紗希さん:
「冷やせ」と強く呼びかけることで、今まさに火照って熱くてたまらないという気持ちが出てきます。飛び込むという言葉にも勢いがありますね。俳句はたった17音なんですけど、その中に「瞬間」を閉じ込めることで現実そのもののように生き生きと命が吹きこまれます。渚人くんのこの句は、その臨場感を表す表現をたくさん盛り込むことで生き生きとした瞬間が輝いている句になりました。
渚人さんが熱中しているのは、小学1年生から取り組んでいるソフトテニスだ。全国大会に出場した経験もある。今回の句はソフトテニスに打ち込む中で生まれたという。

渚人さんは「この近くにプールがあるので、練習終わりにプールに入ったときの気持ちよさで俳句が生まれました」と振り返る。
いつも一緒にテニスをしているという友人は、普段の渚人さんについて「わんぱくな小学生」「笑いを作ってくれる人」「練習するときに大きな声で自分たちをリードしてくれる存在」と語る。彼らの言葉に渚人さんははにかんだ表情を見せた。

そんな渚人さんは「お父さんが先生なので、先生になってみようかな」「算数とか国語とかを教えたい」と将来の夢を語った。
「夏休みとか冬休みで俳句の宿題が出たら、また本格的にやってみたい」と、今後の俳句への意欲も見せてくれた渚人さん。中学生になっても、俳句の応募を楽しみに待っている。
時を超える年間大賞に込められた思い
続いて、年間大賞の発表だ。

「囀(さえずり)は 明日を待つ声 墓石拭く」
愛媛・松山市在住の山内佑資さんの句だ。
松山東高校で俳句部に入り、俳句を作り始めたという山内さんは、高校時代に俳句甲子園に出場した経験を持つ。

山内さんは「まずはびっくりしたというのが一番で、月間の優秀句で放送していただくだけでもうれしいんですけれども、年間大賞をいただけるなんて大変光栄です」と受賞の喜びを語った。
この句が生まれたのは「通勤中に墓地近くを通った時」だという。

大賞・山内佑資さん:
鳥のさえずりの声が、そのとき力強く頼もしく聞こえたような感じがしたんです。その中で祖父母の姿を思い出して、今までの前の世代のことを私たちが引き継いで次の世代につないでいかないといけないんだということを改めて感じたことから、この「さえずり」というところに思いを乗せられたかなと思っています。
審査員の神野紗希さんは、この句の魅力をこう評価する。

審査員・神野紗希さん:
まずは「墓石」が「過去」を表しています。これまでに積み重ねられてきた自分につながる過去の人々、過去の時間がある。そして「さえずり」の声は春を告げる声なので、明日を待つ声、明日、「未来」というものを思いながら今その墓石を拭いていると。過去と未来の真ん中にある現在をしっかり描いてくださったことで、大きな時間の流れの中で私たちは生きていることを気づかせてくれる一句になっていました。
祖母と妻と 俳句で紡ぐ家族の絆
さらに山内さんの句に込められたような“時間の積み重ね”を感じさせるエピソードがある。
実は5年前、2019年の「きょうの俳句」年間大賞は、山内さんの祖母・河本俊子さんが受賞していたのだ。

受賞当時、俳句の魅力について河本さんは「5・7・5の17文字の中に色んな思いが込められる。それをあからさまに表現しないで、というのが私の作る信念」と語っていた。
現在89歳の河本さんは、今も俳句を楽しんでいるという。山内さんは「毎回この句はこうやね、ああやねと結構言ってくれるので、やっぱり俳句としては私の大先輩であるので色んなアドバイスをいただいている」と、祖母との俳句を通じた交流を語る。

さらに山内さんの妻・なるみさんも最近俳句を始めたそうだ。「すごい旦那が熱を持って楽しんでやっていたので、私もそれに感化されてちょっとやってみようかな」と、なるみさんは俳句を始めたきっかけを語った。
なるみさんの句も「きょうの俳句」で紹介されたことがある。2024年10月、兼題「星月夜」で紹介された句がこちらだ。
「星月夜 宙を掴みし プロポーズ」

この句について、なるみさんは「私の理想というか、実際に星月夜の中で煌々(こうこう)と光るところでプロポーズを受けたらどんなにうれしいことかなと思って作りました」と説明する。これに対し、山内さんは「そんなプロポーズはしてないんですけどね」と笑い、なるみさんも「あれは事実ではございません」と照れ笑いを見せた。
一家で俳句に親しむ山内さん。今回の年間大賞受賞をきっかけに、俳句作りにさらなる意欲を燃やしている。

「実感に即した自分の実生活が現れて、それが読んでくれる人にも伝わる句ができたらいいかな」と、今後の抱負を語った。
17音の中に込められた思い。それは時を超え、世代を超えて、人々の心に響き続けている。EBCライブニュース「きょうの俳句」は、これからも私たちの日常に寄り添い、新たな感動を届けていく。視聴者の皆さんからのすばらしい俳句の投稿を、これからも楽しみに待っている。
(テレビ愛媛)