童話「桃太郎」といえば、イヌ・サル・キジをお供に鬼ヶ島に向かった桃太郎が果敢に鬼退治するというお話だ。ところが戦わない「桃太郎」があるのをご存じだろうか?そんな“新解釈”の「桃太郎」による平和学習が、鹿児島県志布志市の小学校で行われた。

「特攻作戦」などのテーマを扱う劇団が小学生に平和学習

6月25日、志布志市立尾野見小学校で開かれた平和学習。先生は、埼玉県を拠点に全国で活動する劇団「インディゴプランツ」の俳優たちだ。

志布志市に近い鹿屋市には、戦時中、3つの航空基地があり、全国で最も多い1271人の若き特攻隊員が亡くなった。「インディゴプランツ」はこれまで、特攻作戦や特攻専用の航空機など、戦時中の鹿屋をテーマにした演劇を上演してきた。志布志や鹿屋のある大隅地区での公演も多い。

埼玉県を拠点に全国で活動する劇団「インディゴプランツ」
埼玉県を拠点に全国で活動する劇団「インディゴプランツ」
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平和学習の教材に武力を使わない現代版「桃太郎」を使用

その「インディゴプランツ」のメンバーが今回、平和学習の教材として選んだのは、童話「桃太郎」だった。授業に先立ち児童らは、ストーリーの異なる2種類の「桃太郎」のアニメを視聴した。桃太郎がイヌ、サル、キジをお供に鬼ヶ島で鬼を成敗するのは変わらない。違うのは鬼退治の方法である。

1つは桃太郎が勇敢に刀を打ち振り鬼をやっつけるというおなじみの展開。

①刀で鬼を成敗するおなじみの展開
①刀で鬼を成敗するおなじみの展開

ところがもう1つは、「返せ!」と桃太郎が鬼に向かって叫ぶと、イヌが「ワンワン!」サルが「ウキー!」と声をあげる。その大きな声に、鬼は耳をふさいで目を回し「やめてくれ~!」と涙を流す。そして鬼は「ごめんなさい」と手をついて謝った。桃太郎たちは暴力を使わず、声で鬼を降参させたのだ。

②鬼を暴力ではなく声で降参させる展開
②鬼を暴力ではなく声で降参させる展開

子どもたちも満場一致で「戦わない桃太郎」の方が好き

2種類の桃太郎を見て、みんなどう感じたのだろうか?

体育館に集まった児童を前にインディゴプランツの俳優、藤田信宏さんが「皆さんには2つの桃太郎を見てもらいましたが、この2つには何かしらの違いがあったと思います。気づいた人?」と、問いかけた。

すると、児童の一人が「昔の桃太郎の刀は鉄だったけど、今の桃太郎が持っていたのは木だった」と答えた。確かに声で鬼退治した桃太郎が持っていたのは木刀だ。

別な児童は「昔の桃太郎は暴力をやっていたけど今の桃太郎は、やっていなかった」と鋭く指摘した。

生きていく上で大切なこと 声に出して自分の意思を相手に伝える

すると藤田さん、「これから皆さんが生きていく世の中で大切なのは、手をあげることではなく、自分の意思をしっかりと相手に伝える、声を上げることです」と子どもたちの目を見て、一言一言かみしめるように、力強く語りかけた。

一人の男子児童は「戦わないで自分の思いを伝えて、相手をいい気持ちにさせる方がいいと思う」と話し、別の女子児童は、「手を出すと相手が傷つく。ちゃんとみんなが分かりあえる世の中になってほしい」と、平和への願いを言葉に込めた。

「戦う桃太郎」と「戦わない桃太郎」。どちらが好きかたずねてみた。

「戦う方が好きな人!」との問いかけに手をあげた児童はいなかったが「戦わない方が好きな人!」と聞いたら、みんなの手がサッとあがった。

「戦わない桃太郎」に軍配
「戦わない桃太郎」に軍配

特攻作戦で戦死した若者の遺書の朗読に、児童は真剣な表情

藤田さんは、平和学習の締めくくりに、特攻作戦で亡くなった若者の遺書を読み上げた。

インディゴプランツの俳優、藤田信宏さん
インディゴプランツの俳優、藤田信宏さん

「俺は幸せだった。今こそ大声で呼ばせていただきます」

藤田さんの声が抑揚をつけてさらに大きくなる。そして、こう繰り返した。

「お母さん…お母さん…お母さん!」

特攻隊員が残した「お母さん!」という言葉の放つ悲しい響きに、児童たちは心を揺さぶられたように真剣な表情で聞き入っていた。

真剣な表情で聞く児童たち
真剣な表情で聞く児童たち

戦うとは何か? 平和とは何か? 2つの「桃太郎」、そして特攻隊員の魂の叫びを通して、児童一人一人の心に、何かが芽生えた平和学習となったに違いない。

(鹿児島テレビ)

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鹿児島テレビ
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