2023年6月、新潟県上越市で自営業の男性を殺害し、現金を持ち去った強盗殺人などの罪に問われている男の裁判員裁判が1月21日に開かれ、検察側や弁護側からの被告人質問が行われた。この中で男が事件当時、なぜ被害者の自宅にいたかなどの状況が語られるも、暴行時のことを聞かれると「覚えていない」「分からない」といった答弁を繰り返した。
「正気ならこんなことしない」
強盗殺人・住居侵入・窃盗の罪で起訴されているのは長野県上田市の無職・小倉一夫被告(72)だ。

起訴状などによると、小倉被告は2023年6月1日、上越市の自営業・中村礼治さん(62)をハンマーで複数回殴って殺害し、現金約120万円の入ったバッグを持ち去ったほか、2023年4月5日にも中村さんの自宅に侵入し、現金約26万円を盗んだ罪に問われている。
20日に行われた初公判では、強盗殺人についてのみ否認した小倉被告。
検察側からの被告人質問で、小倉被告が商品の仕入れに平均で月10万円、元妻などへの返済に月6万円~10万円、さらには月4万円の家賃がかかっていることが明かされ、その生活の苦しさが浮き彫りとなった。
検察:
弁護側からの質問では窃盗、強盗未遂事件時には自暴自棄や自身の境遇に悲観的になった、孤独だったという話をしていたが、それ以外に原因として考えられることはあるか?
小倉被告:
先行きの不安があった。経済的な部分もある。また、自身が中村さんから車を購入したり、リースしたりした際に支払いができていない金額分を中村さんが小倉被告が取り扱う商品の代金と相殺していたことには不満も覚えていたという。
検察:
中村さんへの嫉妬や不満は?
小倉被告:
あった。中村さんは仕事も順調だったし、自分が販売する商品を現金で払ってくれなかったこともあるので
検察:
殺害するだけの嫉妬心、不満は本当にあった?
小倉被告:
自暴自棄に陥って、パニックになって、何がなんだかわからなくなっていた。正気ならこんなことはしない
検察の当時の取り調べは「作り話していた」
検察も強盗殺人事件が発生した6月1日について質問した。

検察:
小倉被告は中村さんが帰宅したとき何をしようとした?殴りかかった記憶はある?
小倉被告:
何をしようと思ったかも記憶がない
検察:
中村さんが帰宅してきたことは覚えているか
小倉被告:
車のライトが見えたのと、車から誰かが下りた瞬間に赤いものが見えた。あとから思い出せばつなぎだと思った(中村さんは当時、上下が赤いつなぎを着用)
検察:
中村さんが車から降りたのは分かった?
小倉被告:
分からなかった
検察:
声はかけた?
小倉被告:
ないと思います。いやかけてない
検察:
声かけずに何をした?
小倉被告:
殴りかかったかもしれません
検察:
覚えてない?
小倉被告:
覚えていない。はっきり殴った記憶ない
その後も、バッグを車内からとったあとに中村さんを殴った理由や中村さんの自宅内に血痕や足跡が残っていて侵入したかどうかを聞かれた際にも「記憶にない」「よく覚えていない」といった回答に終始していた小倉被告。

検察は、逮捕・送検されてからの取り調べで話していた内容と法廷内で話している内容が違うことを指摘した。
検察:
中村さんが倒れていたところにはかなりの量の血痕が広がっていたが見た?
小倉被告:
見ていなかった
検察:
見てないという記憶?
小倉被告:
分かりません
検察:
捜査段階では、倒れている中村さんの口がもごもご動いていたのを見たと話していたが?
小倉被告:
覚えていません
検察:
捜査段階と話が違っていますよね?6月1日に中村さんの自宅に行った理由を聞いた際には、売掛金の10万円を回収して金を借りようと思っていたと話していたが。
小倉被告:
それは作り話なので。120万円を娘名義の口座に入れて、迷惑がかかると思ったからそう話した
検察:
中村さんから金を借りるのと娘はどう関係ある?
小倉被告:
自分が容疑を否認したら娘の方に捜査がいってしまうと思って、作り話をした
検察:
取り調べでは暴力をふるったと正直に話していたが
小倉被告:
それも迷惑がかかると思って作った話です
検察:
強盗して娘名義の口座に振り込んだとも話していた
小倉被告:
否認すれば娘に捜査が及ぶと思ったので
検察:
あそこで娘の話をした時点で、迷惑がかかるとは思わなかったのか
小倉被告:
強盗と金に口座があるというのは別問題だと思った。娘にだけは迷惑かけちゃいけないと思って
検察:
公判で何度も話している「自暴自棄」といったような話は取り調べではしなかったですよね?
小倉被告:
はい
検察:
車を遠くに止めて、靴も履き替えて、手袋もはめて、帰ってきた中村さんにすぐ接触。中村さんが金持っている人だと知ってて犯行に及んだんですよね?
小倉被告:
そんなにいっぱい持っているとは思っていなかった
検察:
防犯カメラには中村さんを殴打後、すぐ車に体を入れて金をとってた。本当は金をとろうとしていたのでは?
小倉被告:
そんな気はありませんでした
防犯カメラに犯行の一部始終映るも…
弁護側、検察側の被告人質問が終わり、最後は裁判員裁判に参加している裁判員や裁判官からの質問が行われた。

裁判員:
6月1日に車の中からバッグを持ち去った記憶はある?
小倉被告:
長野県の自宅に着いたときにわかった
裁判員:
防犯カメラ見ると助手席のドアを開けてからすぐに後部座席からバッグをとっていたが
小倉被告:
車の中に入ったら、すぐ目の前に見えたのでとっただけ
裁判員:
バッグの中身が何かは考えた?
小倉被告:
何も考えていませんでした
長野県の自宅に着いてから自分が危害を加えてバッグを持ってきたことを思い出したという小倉被告。続いて裁判官と裁判長からの質問は強盗殺人事件前後のことについて及んだ。

裁判員:
助手席のドアを開けて、バッグが目に入ってとったと言っていたが、それは覚えている?
小倉被告:
防犯カメラのビデオを見たので
裁判員:
その前後の記憶は?
小倉被告:
記憶はない
裁判員:
自宅に帰ってから危害を加えたことを思い出したと言っていたが、具体的にはどんなことした
小倉被告:
殴りかかった記憶はある。手で殴ったか棒状のもので殴ったかは分からないけど
最後に小林謙介裁判長からは、検察が示した証拠についての疑問が投げかけられた。
裁判長:
被害者を殴った時の返り血は受けましたか?
小倉被告:
着ていたシャツに付いていたと思います
裁判長:
その着ていたシャツはどうしましたか?
小倉被告:
覚えていません
ここで小林裁判長は、検察が証拠調べで示していた道端に捨てられていたシャツの写真を示した。
裁判長:
着ていたシャツで間違いないか?
小倉被告:
間違いない
裁判長:
犯行後に脱いで捨てた?なぜこの道端にあるか分かる?
小倉被告:
脱いだのも、なぜここにあるかも分からない
裁判長:
小倉被告は犯行時赤い手袋もしていたと思うが、それはどうした?
小倉被告:
どこかは覚えていないが、近くに空き地があり、その空き地に落ちていたと聞いた
裁判長:
思い出せることは
小倉被告:
なんで落ちていたかは記憶ない
着ていたシャツと手袋をどうしたかについて、覚えていないと話した小倉被告は犯行に使用したハンマーの行方についても「分からない」と話した。
裁判長:
木の棒状のものの話をしていたが、最終的にどうしましたか
小倉被告:
どうしたか全然覚えていない
裁判長:
ハンマーは民家の敷地内にある蓋つきの排水溝の下に隠されていたが、隠した記憶は
小倉被告:
ありません
裁判長:
被害者が亡くなったことを知ったのはいつ?
小倉被告:
知人から2~3日後に電話があって「ニュース見た?」と。私はニュースを見ていなかったので知らなかったが、その電話で知った
裁判長:
どう思った?
小倉被告:
ひどいことをしたと思って呆然とした
裁判長:
自分がやったと思った?
小倉被告:
その時間に訪問したのは自分だけだったので、知人から聞いた時点で自分だと分かった
約1日かけてさまざまな質問に答えた小倉被告。自身が起こした事件のことについては記憶がないなどあいまいな答えが続いたことについて、裁判員や裁判官はどのように受け取ったのか。
判決は1月29日に言い渡される。
(NST新潟総合テレビ)