外科手術に欠かせない存在の麻酔科医。麻酔の量をコントロールし、痛みを感じさせず、患者の命を守るのがその役割だ。仙台市泉区の病院に勤めていた麻酔科医の男が、自らに医療用麻薬を注射していた疑いで逮捕された。しかし、病院で管理されていた麻薬の量に変化はなく、男が使った麻薬の入手ルートは捜査中だという。
更衣室から聞こえた「うめき声」
麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕されたのは、埼玉県さいたま市に住む麻酔科医・室井賢一容疑者(61)だ。室井容疑者は事件当時、循環器疾患の専門病院「仙台循環器病センター」に麻酔科の部長として勤めていた。24時間体制で救急医療ができる体制を敷く中規模病院だ。

2022年10月4日、他の麻酔科医とともに手術を担当していた室井容疑者は昼休憩に入った。しかし、時間になっても戻らず、更衣室から「うめき声」が聞こえたことから、スタッフが駆け付けると、倒れている室井容疑者を発見したという。
「体調不良」弁明も 麻薬注射の疑い
室井容疑者は意識不明の状態で、病院は「麻薬中毒の疑いがある」と警察に通報。救急車で仙台市内の大学病院に搬送し、室井容疑者は翌日、意識を回復したという。

病院側の聞き取りに対し「体調不良で倒れた。前後の記憶がない。忙しくて疲労がたまっていた」などと話していた室井容疑者。宮城県警は捜査を進め、1月23日、治療の目的以外で医療用の麻薬「フェンタニル」数ミリリットルを所持し、自分の体に注射して使った疑いで室井容疑者を逮捕した。
事件後に退職 埼玉の別の病院に転職
室井容疑者は「地元で仕事がしたい」と事件の翌年、仙台循環器病センターを退職。現在は埼玉県にある別の病院に勤務している。室井容疑者はどんな人物だったのか。2007年から2023年までを過ごした仙台循環器病センターによると、勤務態度に問題はなく、業務も手術も滞りなくできていた。今回の逮捕についても「非常に驚いている」という。

病院保管の麻薬は「異常なし」
医療用麻薬が悪用されたかもしれない今回の事件。室井容疑者が倒れた10日後、マトリと呼ばれる、東北厚生局麻薬取締部も仙台循環器病センターに立ち入り検査を行い、医療用麻薬の管理状況や帳簿を確認した。しかし、病院によると、院内で保管していた麻薬の数量は帳簿と矛盾なく、持ち出された形跡も見つからなかったという。

使った麻薬は一体どこから?
室井容疑者が使った医療用麻薬は一体どこから来たのか?警察は捜査に支障があるとして、室井容疑者の認否を明らかにしていない。

人の命を守る一方、使い方次第で命を奪いかねない医療用麻薬をめぐる今回の事件。捜査の進展が待たれている。